大空ひろしのオリジナル小説

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苦い酒

転勤で寮住まいしたことがある。
寮では独身男性が入っていて、年齢はマチマチ。


その寮では、転勤者や新入り寮者などを歓迎する飲み会が春の恒例となっていた。
歓迎飲み会は、寮にある食堂で行われる。


当日は、会社の上司なども参加した。
付き物の上司挨拶。
支店のトップが「今日は無礼講。大いに飲もう」と挨拶の最後を締めくくる。


総勢30人を越えた宴会。
場所が寮の食堂ということもあって、酒好きを中心にかなりの酔っ払いが生まれた。


宴たけなわになり、酔いに任せて某寮先輩が支店長の気に障る行為なのか言葉なのか、
その様な行動をしてしまったようだ。
正直、その時の自分は末席だったので何が起こったのか理解出来ないでいた。


その時の支店長もかなり酒が入っていたとみえ、某先輩を名指しして怒りまくる。
支店のトップの怒りに、参加者達は酒を飲むのを止め、料理に手を付けることさえ出来ない。
皆一様にうつむき加減で目の前のテーブルを眺めて、嵐が過ぎるのをひたすら待つ。


10分を越えていたと思う。支店長はそれこそ顔を真っ赤にし、某先輩を立たせ、叱り続けた。
自分はその時点では「無礼講」の意味を知らなかった。が、折角の歓迎や親睦目的の飲み会なのに、これは悲惨な状況だと情けなく思った。


後に「無礼講」と言う言葉は、必ずしも羽目を外し悪ふざけをしても良いと言うことでは無いと、肌で感じた。
堅苦しくならず、和やかに飲もうと言う風に捉えるのが賢明だと。


この時の費用は会社が総て負担しているので問題無い。


でも、下戸或いは下戸に近い人が会費を払っての飲み会となると、今の人達は色々考えるようだ。
抑も、何故酒を飲まなければ親睦できないのか、という疑問をもつのか?
酔わせて、相手の正体、つまり本心を探ろうとする? それならば、考えようによっては卑怯だ。
誰だって酔いが深まれば本心、本能が出てしまう。狡い。寝ちゃう人もいるけど。


何でもそうだが、行き過ぎは良くない。人前で「大とら」になる迄飲むのは愚か。
正常な人から見れば、「大とら」は、柱に縛り付けたくなる。とにかく始末に負えない。


それよりも、同じ金額では酒好きを喜ばすだけだろうとか、好きでも無い奴らに愛想を振りまくような事をしたくない。仕事以外で自分の時間を奪われたくない。
今の若い人達には、そのような気持ちが働くのだろう。


時代は変化する。
昔は「酒は百薬の長」と言われたけど、今の医学では「人体に害」となってしまった。
少量なら良いだろうというのも、研究発表に依ればそれすら否定された。


妊娠時の飲酒も禁止と。気になるのは、男の精子にも影響があるのかどうかだが。
男性で飲むと性欲がムラムラ、と言う人が少なくない。女性は分からないが。


私と親戚の嫁さん。同じく親戚が経営するスナックを手伝っていた。
妊娠を知ると、子供が離乳するまで飲酒をピタリと止めたそうだ。


何れにしても酒で思考力が落ちるのは事実なので、皆さんもお酒は控えめにしましょう。