大空ひろしのオリジナル小説

オリジナル小説や音楽を

過去から今日は 27

 駿人と美奈はスパゲティ専門店に居た。
「ごめんな。もっと高級な店とか有名店の方が良いのかも知れないけど、俺自身行った事無いし、未だ社会人だからお金の方もね。もし次も一緒に食事する機会が出来たら、それまで調べて置くから」
「私も高級店とかに入ったこと無いです。そういうお店ってルールみたいなのがありそうで、肩がこる感じがするから余り行きたく無いです」
 嬉しい事を言ってくれる美奈。


「美奈ちゃんの好きな食べ物とかお店はあるの?」
 駿人は美奈に、逆に尋ねてみる。
「駿人さんは甘い物は嫌いですか?」


「俺は、余り酒飲めないから、甘い物も好きな方だよ」
「だったら、今度そういう店に連れてって貰えますか?」


「甘味処、大いに結構。でも、俺は男なのでそういう店は知らない。美奈ちゃんが行きたい店があったら、連れてって欲しい、俺は何時でもお供するよ」
「わー、嬉しい」
 駿人は、美奈とは波長が合う気がとてもすると思う。


 料理が運ばれる前に話は続く。
「駿人さんって、整形どう思います?」
「整形? 顔とか体とかの整形のこと?」
「はい」


「どうって言われても。美奈ちゃんはしてないんでしょ? 整形したいの?」
「私と私の姉、似ていると思いますか?」


 言われてみれば余り似ていない。兄弟姉妹がそっくりなケースもあれば、どういう訳か、殆ど似ていないケースも少なくない。
 姉の奈未は美人型。妹の美奈は愛嬌も備わった可愛いタイプ。


「うん、そういえば余り似ていない気がする」
「そうなの。小さい頃は結構似ていたんだけど・・・」


「あのー、若しかして、お姉さんは整形したとか?」
「うん。奥二重の瞼から、ハッキリした二重に。序でに目も大きくしたんですって。それに鼻筋の手術も」


(そうか、あの美人顔は整形手術によるものだったのか)
 危うく声に出してしまう所だった駿人。


「そのくらいなら、今の女性は結構していると聞いているから、別に良いと思うよ。男だって整形する者が出て来ているし。お隣の国なんか、かなりの人数にのぼるしね」
「男の人って、やっぱり美人が好きなんですか?」


 嫌いな男は居ない。だが、好きになる理由とか感覚は見掛けだけで無いのは確かだ。


「見掛けが魅力的でも中身が無ければね。遊ぶだけなら美人が良いのは当然と言いたい所だが、性格が悪かったらどんなに美人でも御免被りたいな」
「私はどうですか?」


「お姉さんのような美人タイプでは無いけど、素の表情がとてもキュートだと思うよ。美奈ちゃんは整形なんかしなくても、多くの男達が可愛い娘(こ)と思う筈だよ。何も変える必要はないさ」
「ありがとう」


 素直に嬉しがる美奈。その笑顔と仕草がとても可愛い。虜になりそうな駿人。
 すると、耳元に静子の声が聞こえてくる。


「駿は惚れやすいのだから、気をつけなさいよ」
(うるさいな。惚れたって良いだろう。溺れなければ)
 ムッとして、心の中で叫ぶ駿人。
 とはいえ、駿人の場合は簡単に溺れてしまうのだけど。



「今回は上手く行ってるんじゃ無いの?」
 自分の部屋で、駿人が良い気分に浸っている時に限って現れる気がする静子。


「余計なお世話。途中で何か説教めいた事、言わないでくれる」
「あら、ウチ、何も邪魔してないよ」


「言ったじゃ無いか。溺れるなよって」
「ウチ、何も言ってないよ。若しかして、もう一人の駿が自制の言葉を吐いたんじゃ無いの? だとしたら、成長したのよ。自分で自分をコントロール出来るようになったのよ」


「本当に?」
「そうよ、ウチの指導の賜(たまもの)ね」
「その一言が余計なの!」
「あらあら、1人で成長できたと思ってるのね。まあいいわ。所で、駿は姉から妹に乗り換えるの?」


「その言い方、何かトゲがあるように聞こえるな」
「そんなのどうでも良いの。どうなのよ?」


「俺が美奈を好きになると、お静に何か不都合があるの?」
「そうじゃないけど、彼女にしたいのなら、美奈のことをもう少し知ってからにしなさいよ」


「おかしなことを言うね。お静だから言わせて貰うけど、好きになったら一直線。それが恋ってもんじゃ無いのかよ?」
「あっそう。また、一直線なのね。何があっても突き進むのね。頑張ってね」


 いつものように、捨て台詞のような物を残して静子は消えた。



【オリジナル曲】時の玉手箱/大空ひろし


【元の曲名は「掌の猫」だったけど、「時の玉手箱」に替えました。
理由は極力曲名重複を塞ぎたいから。今時点で検索した結果、被っていません。
多少編曲も。音色の美しさを追求したつもりです。】

過去から今日は 26

 少し前に数件覗いて歩いたので、店の場所は殆ど迷わずに駿人は目的の喫茶店に辿り着いた。


 エミーこと、本名・美奈。
 顔は姉の奈未と余り似ていない。奈未の方が美人だった。だが、駿人には美奈の方が何となく惹かれる。
「お姉ちゃんを別れさせてくれてありがとう」
 声は可愛い。甘い声はメイドバイトで鍛えたか?


「いいや・・・」
「殴られたんでしょ。鼻血、大丈夫でしたか?」


(おいおい、そこまで知られてるのかよ。一体誰が喋った? そうか、奈未か。現場に居たんだもんな)
 駿人は頭の中で勝手に問答する。


「いやー、大したことなかったよ。俺、喧嘩弱いから一発でダウンしちまった」
「喧嘩が強くったって、人を騙して良い思いしている人なんか、エミーは嫌いです」
 嬉しいことを言ってくれる。駿人は一遍で妹の美奈を好きになる。


「これ、ありがとう」
 駿人は、内ポケットから和雅から貰った招待券を取り出す。
「私の招待券ね。来て貰えて嬉しいです」
 そう言いながら、美奈は駿人の手を両手で自分の掌中に収め、そっとの胸に引き寄せる。
 正にスペシャルサービス。


 勿論、ブラや服の上からだが、何となくこんもりした感覚が伝わってくる。駿人の脳は感激で一杯になる。



「おう、駿よ。メイドの妹に会って来たか?」
「知ってる癖に」
 駿人は静子に、ニヤけた顔をして答える。とにかく気分は最高。


「何だよ、あの程度の事でニヤけてさ。茉莉とはもっと楽しいこと、気持ちの良いことしたんだろが」
 茉莉は少し前の駿人の彼女。


「あれはあれ。これはこれ。それに、茉莉はもう居ない」
「全く駿は惚れやすいんだから。美奈って子も、商売上のリップサービスよ」


「いや違う。彼女は違う。俺の会った女の子の中で一番純粋!」
「もー、遣ってられないよ。甘い言葉を囁かれると、直ぐに惚れちゃうんだから」


「いいんだも~ん」
「ばっかじゃ無い。直ぐ感化されちゃって。気持ち悪いんだよ、その言い方」


「あのさ、人が心地よい気分で居るのに、邪魔しないでくれない?」
「食事なんか誘っちゃって。よくあの子がOKしたな」


「そうなんだよな。ダメ元で言ったんだけど乗って来た」
「『お姉さんのその後どうなったか詳しく教えて欲しいな。食事しながら』なんて言葉に、『これはただ飯が食える。誘いに乗ってやっか』みたいなんだよ」
 静子が意地悪く言う。


「理由はどうであれ、縁が生まれた。お静も言ってたろ。良い縁をどんどん創っていけば、生命の傾向性が良い方向に向かうって」
「そうなんだけどさ。美奈って子が良い縁に当たるかどうかは未だ分かんないからね」


「焼いてんのか?」
「自分の未来身に誰が焼き餅焼くか! また失恋して泣きべそをかく姿を見たくないんだよ。情けなくて」


「はいはい。そうならないよう、今度は頑張ります。ハイさようなら」
 駿人は追い出すように静子に言い放つ。


【 旅は少人数に限る。特に自分は一人旅派。性格的には独歩的。大勢の人と戯れるのはとても苦手。まあ、様々な人が集まって居るのが社会だから強いこだわりは控えているが】


稲刈り後の田んぼ。9月の高温気候が影響したのか沢山の稲穂が付いている。もっとも
白穂止まりで米までには実らないだろう。

過去から今日は 25

「これって、メイド喫茶の招待券?」
「そうだって。成美が言ってた。成美が奈未君から預かったんだって。駿君に渡してくれって」


 親しくなったお客に、個人的に渡す招待券だという。勿論、お店のオーナーも賛同済みの物。


「若しかして、奈未ちゃんの妹さんから?」
「そう。お姉さんを救い出してくれたお礼だって」


「俺、何もしてないよ。殴られただけだよ?」
「どうやら、その時の暴力行為を見て、奈未君はホスト男のDVを連想して怖くなったみたいだ。それで、一気に熱が冷めたらしい」
 やっと、駿人にも合点がいく。


「でも、妹さんからなんだね」
 さすがに奈未本人からは言葉を掛けにくいのか?
「奈未君がホストが嫌いになったからといって、彼女が駿君を好きになるとは限らないからね。駿君も奈未君を彼女にしたいなんて思わない事だね」


 やはり、いちいち言い難いことをズバズバ言ってくる和雅。もう少し思いやりを持ってくれれば、素晴らしい兄貴分なのだけどと、駿人は心の中で呟く。


 ともあれ、招待を受けたからには行かねばならない。駿人は、奈未の妹はどんな女の子なのかと、少々心をときめかせる。
 彼は、未だ奈未の妹とは会ったことも、姿を見たことも無かったのだ。



「駿、良かったな。少なくとも感謝してくれる女性が現れて」
 静子の声だ。
「それこそ、怪我の功名だな」


「おう。なかなか上手いこと言うじゃ無い。駿もそんな言葉知っていたのか? まあ、鼻の骨も折れてなかったようだし、顔の腫れもすっかり直っているし、万々歳だな」
「俺にも運が向いて来たのかも知れないな。幸運の芽が、ニョキニョキと」


「甘い! 奈未の妹が彼女になってくれるとは限らないんだよ。それに、お姉ちゃんは美人だけど、妹も美人だとは成らない場合も多いしな」
「お静は、折角俺が良い気分に浸っている時に、崖から突き落とすような言い方をするんだから」


「だってさ、事実は小説より奇なりで、とんでもない化け物かも知れないでしょ」
「それは無い。断言できる。そんなんだったら、お店で雇わないだろ。例えアルバイトでも」


「おう。ウチの指導が良いのか、推理が鋭くなってるな」
「本当は、お静は奈未の妹を、もう知ってるんじゃ無いのか?」
「まあな」
「あっ、言わなくて言い。店に行ってからのお楽しみにしたいから」
「うんうん、その方が良い。知るのは出来るだけ後の方が。色々な」
 実に含みを持った言い方をする静子。


「付き合いたいと思ってるなら、十分作戦を練っておきなよ。じゃあね」
 静子は消えた。


 最近は毒舌度が増して来た感じの静子。だが、駿人はそんな静子の言動に慣れてきている。
 むしろ、他人は別だが、静子なら毒舌だろうが何だろうが、きっぱり指摘してくれた方がスッキリする。
 まるで、自分の母親の様な感じだなと駿人は思う。


 駿人は、和雅から渡された招待券成る物をじっくり眺める。手作り感溢れるパソコンを使って作った招待券。
【紀田駿人様特別ご招待券】
 と書かれてあり、周辺を可愛い模様で彩られたプリント券。
 駿人はその招待券を持ってメイド喫茶に行く。


【数日団体旅行に行くので、連載を休みます】

過去から今日は 24

 駿人は物陰に隠れる。そして、二人が目の前に来た時、
「奈未ちゃん。そんな男と一緒にいたら駄目だ」
 嫉妬心が我を忘れさせたのか、見境も無く2人の前に出て叫んだ。


「なんだ、てめえ」
 男は駿人に近づき、いきなりパンチを放った。パンチの勢いに負けて、無残にも腰が砕ける駿人。
 鼻の辺りを手で拭うと赤い血が付いた。


「ぶっ殺してやろうか?」
 その言葉に、駿人は腰を落としたまま掌を男に出しながら、自分の顔を隠すように前に突き出し、無言で何度も頭を下げる。
「今度、俺の前に現れたら、ぶっ殺してやるからな!」、 
 男は捨て台詞を吐き、奈未を引き寄せ意気揚々と去って行った。



駿人の部屋。
「弱い、弱過ぎる。そんなに弱いのに、よくホスト野郎に因縁付けたな」
「うるさい。呼んでいないのに出てくるな」


 鼻血は止まったが、痛みは残る。心配なのは、鼻の骨が折れていないかどうかだ。
その鼻を気にしながら、現れた静子を睨み付ける。


「ヒーローにでも成りたかったのか?」
「そんなんじゃ無い。頭に血が上ってかーっとなり、気がついたらあいつの前で怒鳴っていた」


「でもさ、あれじゃあ、益々奈未がホストを好きになっちゃうよ。強いし、格好良いし。ウチだって惚れちゃうかもよ」
「糞食らえだ。お静があんな男に惚れるなら、俺は死んだ方が増しだ」


「おー? ウチに気があるのか。それだけは止めろよな。気持ち悪いから」
「誰が惚れるか。過去身の自分になんか惚れるわけが無いだろ」


「分かんないよ。ナルシストという言葉があるらしいじゃない」
「意味が違うだろ。俺たちには当て嵌まらない」


「まあ、それは良いとして、駿人は痛い思いをしただろうが、結果オーライだよ」
「殴られたのにか?」


「そう。傷害罪で訴えて遣れば良い。警察が絡めば、奈未も多少頭が冷えるんじゃない?」
「俺は嫌だ。恥だよ。そんなみっとも無い事を世間に晒したら、会社に行けなくなる」


「そんな事は無いと思うけどな。しょうがない、無駄骨も止む無しか。鼻の骨、折れてんのか?」


 この件を境に、駿人は奈未をきっぱりと忘れることにした。やはり駿人は女運が悪いようだ。
  


 春も近づき暖かな陽気が増えて来た。
 そんなある日、紀田家に成美の兄、和雅が遣って来た。駿人に会いに来たのだ。


「和さんも俺のこと、あざ笑いに来たの?」
「殴られて鼻血を出したことかい?」


「うん」
「そりゃ、しょうがないよ。相手は喧嘩に慣れてたんだろう。気にすんなって」


「さすが和さんだな」
「それよりも、駿君に朗報があるんだ」


「何ですか?」
 朗報と聞いて、駿人の気持ちが少し和らぐ。何しろ、ここのところ少しも楽しい事が無かった。


「実はね、俺、招待状のような物を預かってきたんだ」
「招待状?」
「まあ、手作りみたいな物だけどね」
「どんな物なんですか?」
 和雅は名刺サイズの印刷物を駿人に差し出す。



【Music】光の水辺Bass編

過去から今日は 23

 和雅が両親に会いに来た用を済ますと、駿人は和雅を自分の部屋に連れ込んだ。
「和さんは奈未という女の子を知ってますか?」
「知ってるよ。美人な子だよな」


「名字は何て言うんですか?」
「確か、峰村とかだったと思うよ。駿君はその子に会ったことあるのか? まさか、一目惚れしたって言うんじゃ無いだろうな?」
 ああー、この兄も遠慮無くズバズバ言ってくる。妹の成美と同じだ。


「一目惚れとまでは行かないけど、まあ、それなりに」
「止めときな。成美の話だとかなりイケメンに夢中らしいから」
 和雅の言葉は、かなり失礼だ。暗に、お前はブスオだからとても太刀打ち出来ないと言ってる。
 駿人自身は、そんなに醜男とは思っていない。ただ、鏡をじっくり見ないようにしているが。


 気にせずに、
「それなんですよ。実は奈未さんの妹が、そのイケメンホストの事で心配しているんですよ」
「何だ、相手はホストか」


「そうなんです。お金は使うし、貢いだ後はぼろ切れの様に捨てられるんじゃ無いかって」
「気持ちは分かるけど、恋狂いした人間を冷静にさせるのは相当難しいぞ」


「分かってます。でも、自分に出来るものなら何とかして上げたい」
「そりゃ構わないけど、ああいう世界には関わらない方が良いと思うな」


「やっぱりそうですかね」
「人助けしたい気持ちは分かるが、奈未君にとっては迷惑かも知れないしな」


「ですね。でも、そのイケメン野郎がどう言う人間かぐらいは知りたい」
「駿君は、そいつを全然知らないんだろ?」


「名前も何もかも知らない」
「駿君の気持ち、分かったよ。俺にそいつの情報を調べて欲しいんだろ?」
「うん」
「俺は情報を持ってないけど、成美に聞けば知っているかも知れない。今度会ったら聞いてみる」


 無駄では無かった。物事はしつこく追って見るものだと思う駿人。


 返り討ち


 駿人は今、某ホストクラブの近くに居る。
 和雅や成美兄妹の助力を得て、やっとこの店に辿り着いた。そして今夜は、奈未が例のホストと逢う日。


 奈未は、昼間は普通の会社。休日の夜は会社に内緒でバイトをしている。好きなホストをつなぎ止めておくにはお金が必要。
 とはいえ、奈未は十分なお金を稼いでは居ない。なので、恐らくホストにしてみれば、奈未はかなり順位が低い相手なのだろう。
 それでもホストにしてみれば、客がいない時の都合の良い女ではある。なので、軽々に捨てはしない。


 駿人はホストクラブが見える位置に佇み、入り口付近に視線を向けている。ただそれだけ。
 これから先、どうしてやろう何て全く考えていない。とにかく、店が立ち並ぶ繁華街の喧々囂々とした雰囲気に気後れしている。
 お酒の好きな人なら、こういう雰囲気を楽しめるのだろうが、駿人は苦手だった。


 何気なく視線を置いていたホストクラブの入り口から、一組の男女が現れた 奈未である。男は彼女がお熱なホストだろう。
 男は奈未の肩に手を回し、彼女を抱き寄せるようにして歩いている。これからホストの部屋に行くのか、それともラブホテルに入るのか?


 奈未が嬉しそうに微笑み、時々ホストの顔を覗く姿に、駿人は激しく嫉妬する。
そうこうするうちに、二人は駿人の居る方向に来るでは無いか。