大空ひろしのオリジナル小説

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同居人 10

 拓斗は母親に電話をする。
「咲季が戻って来たけど、何か変なんだ。何かあったの?」
「咲季が何か言ったか?」
 母が逆に聞いて来る。


「何も言ってくれないから電話したんだよ。咲季は務めていた会社の不満をぶちまけに行ったんじゃないのかよ」
「そうそう。だいたいそういう話だよ、大した事じゃないよ。」
 咲季に関しては、母はそれ以上話してくれなかった。



「ねえ、仲が良いのはまあ良いけど、私の目の届く所でイチャイチャしないでよ」
 咲季が拓斗にそんな言葉を浴びせる。
 咲季はこんな言い方をするのは可笑しい。やはり実家で何かがあったとしか考えられない拓斗。


「ごめん。気をつける」
 咲季の態度が変わった原因を掴めない限り、拓斗は言い返すのを止めることにした。 
 そのことをそっと奈津子にも伝える。
 すると、
「若しかしたら、好きな人に振られたのかも」
 同じ女性同士。何か感じる物でもあるのか?


「そうか、奈津は男性関係と見ているのか」
「それと、咲季の作品登用問題と重なっているのかもよ」
「それも考えられるが、実家に帰ってから変わったというのがどうもな。俺、近い内に実家に帰るから何があったか突っ込んで聞いてみるよ」
 


 拓斗が実家に帰る。
「頼んだ実が成る木を植えてくれたんだ。ありがとう」
 拓斗は母に礼を言う。


「どうせ土地は一杯あるから」
「兄貴は文句言わなかった?」
「そんなの気にしないよ、智哉は。それより智哉の所に嫁に来るような女は居ないかね?」
「一応、気に掛けては居るけど、なかなかね」


「農家だけど、収入は良いんだ。時間に追われる仕事じゃ無いし、精神的な苦労もしないだろ」
「母さんは、嫁いびりするのか?」
「何て言うことを言うんだ? 母ちゃんがそんな事するわけ無いだろう」
 確かに拓斗の母親は喧嘩とか激しく衝突するのは避ける方だった。


「なあ、お前の所で一緒に住んでいる奈津子ちゃんはどうだ? 此処の出身だし、農家の仕事手伝った事あるだろう。結構大人しいし、智哉に相応しいんだが」
 母にそう言われ、拓斗は慌てる。拓斗は、奈津子を渡す訳にはいかなくなっていた。


「駄目だよ。都会の水に慣れてしまって、田舎に戻る積もりなんか無いよ」
「そうか。智哉は未だ30歳前だが、早いところ決めて貰って母ちゃんも安心したいよ」
 拓斗とて、兄・智哉が結婚してくれれば嬉しい。何故なら、自分が先に結婚するのは悪い気がする。
 跡取りとなり両親を看て貰う都合上、兄に早く幸せを掴んで貰いたい。


「所で、咲季の事だけど、ここに来てから何か変なんだ。母さん、なにか言ったの?」
「言ったかもな」
 母は意外にも素直に答えた。
「何言ったの? 例えば『お前は私たちの子では無い』とか?」
 勿論、冗談だった。所が、
「咲季がそんな事言ったのかい?」
 母は弱々しく聞いて来る。


 母親の性格を知っている拓斗。まさかと思いつつ、
「俺、冗談で言ったんだけど。まさか当たってるなんてこと無いよね?」
「咲季はお前達と一緒に暮らしている。だから本当の事を言うよ」


 母は実家で、咲季との間に何があったのかを話し始める。


 拓斗が予想した通り、実家に帰った咲季は母親に鬱憤をぶつけた。
 すると母が咲季に向かって、
「お前だけは、智哉や拓斗と性格が違うからな。そんな事ぐらいなら、母ちゃんなら黙って引き下がったな」
「性格が違うって、どうして? 何故性格が違うの?」
 若しかしたら、咲季には何か感じる物があったのかも知れない。


 母は慌てて、
「そうじゃ無くて、2人の兄に揉まれたから気が強くなってしまったのかも知れないという事」
 母親の弁解じみた言い方に、咲季は食い下がる。


「あのさ、私は父さんが外に作った子じゃないよね」
「当たり前だ。父ちゃんにそんな事出来ないって知ってるだろ」
「じゃあ、母さんが浮気して・・・」
「馬鹿言うんじゃ無いよ」


「レイプされたとか?」
 これらの問い掛けは、咲季としてはジョークの積もりだった。
 しかし母は、
「もう二十歳になったんだし、本当の事を言ってもよかんべ」
 そう言ってきたのだ。