大空ひろしのオリジナル小説

オリジナル小説や音楽を

2024年2月のブログ記事

  • 同居人 4

     初春と言うには未だ寒さが残る3月の上旬に奈津子が越して来た。荷物置き場だった部屋を片づけたぐらいで部屋全体の模様替えはしていない。  咲季の時にはあちらこちらを変えさせられた。今回はスムーズに奈津子を受け入れる。 「ねえ拓兄。相談なんだけど、拓兄が狭い部屋に移って、私たち2人が広い方の部屋に行く... 続きをみる

  • 同居 3

     拓斗は咲季と言い争うのは苦手だ。勝った試しが無い。なので拓斗は、最後はワンパターンの捨て台詞を残してその場から去るのが常。 「だけどさ、この部屋は決して広くないじゃん。一応三部屋あるので割り振れば何とかなるが、大人3人で生活するとなるときついと思うよ。況してや、なっちゃんは他人で女性。俺みたいな... 続きをみる

  • 同居 2

     部屋の間取りは3LDK。とは言っても4畳半ぐらいの部屋が二つ。6畳ぐらいの部屋が一つ。そしてLDK。  正確な広さは分からない。とにかくマンションは壁や柱などにスペースを取られるようだ。  拓斗は、今までは一番広い部屋に寝泊まりし、狭い部屋2つを物置代わりに使用していた。その手狭な一室が咲季の部... 続きをみる

  • 同居 1

     ある日、佐藤拓斗に母親から連絡が入った。 「咲(さ)季(き)がお前の所に住むと言ってる。嫁に行くまで住まわせてくれ」 「えぇー。何だよ、そっちで就職すれば良いだろ。こっちに来なくたって就職口あるだろ」 「都会じゃ無いと仕事が無いんだってよ。文句を言わずに一緒に住め。そのマンションはお前専用に買っ... 続きをみる

  • 桜餅を食べて

    エッセイなんてものを作ってみました。 本当のところ、エッセイと言えるかどうか? 詩と言うにはお粗末か? 取り敢えず、どうぞ 【大空ひろし】桜餅/エッセイ 単に言葉の羅列では面白くないので、BGMをスパイスにした。 我がオリジナル曲「八重のさくら」です。 文章に上手くマッチしていると感じたので。 読... 続きをみる

  • 湯煙閑談 8(最終)

     須内は旅館入り口付近のフロント辺りをうろうろしていた。もう一晩泊まる予定なので、暇を持て余している。  旅館では雪国体験が出来るよう、雪沓やかんじき、厚手の防寒着などを用意している。  何時でも外に出られると聞いたが、いいオヤジが一人で雪と戯れるなんて恥ずかしいし侘しい。  狭いが、お菓子やお土... 続きをみる

  • 湯煙閑談 7

     とにかく、全ては感染症の広がりだった。  スナック経営の母娘は、未だ感染症など知られていない時に某温泉旅館に予約を取った。  一気に感染症の危険度が増した事で、予約した旅館から、準備が間に合わないとキャンセル依頼が来た。  ママは、 「あら、そうなのー? 折角楽しみにしていたのに」  嫌みタップ... 続きをみる

  • 湯煙閑談 6

    「残念だけど、幾ら待っても娘は来ないよ」 「そんなんじゃ無いって。ただ、温泉旅館に来て温泉に入らないのかなと」 「家族風呂というか時間制限の鍵が掛かる風呂が此処にはあるの」 「はい、受付で聞きました」 「娘は一人でゆっくり入りたいみたいよ。お爺ちゃん達に見られずに」 「ははは。そうですよね。娘さん... 続きをみる

  • 湯煙閑談 5

    「あんたん所、姉さん女房なのかい?」 「金の草鞋の価値あったんか?」  今更違うとは言えない須内。 「とんでも無い。皆さんの所と変わりませんよ」  憮然として答える須内。そう言葉を返して、直ぐにしまったと思う。 (ここは愛想良く答えた方が良かったな)  とは言え、百戦錬磨の海千山千。老人達は笑いな... 続きをみる

  • 湯煙閑談 4

     露天風呂には、食事時に紹介された老夫婦と、席で相対だった春男が肩まで湯に浸かっていた。 「おー、やっと現れたな」  春男が言う。さすが口が良く動く。  軽く会釈すると、須内は少し離れたところに体を沈めた。  周りを見渡すと黄色っぽい昔の白熱球のような色の薄明かりの中、浴槽の両端に木造の高い塀が立... 続きをみる

  • 湯煙閑談 3

     酒に弱い須内は、眠気をもよおし、部屋に戻ると寝てしまった。  2時間ぐらい経って目が覚めると未だ見ぬ露天風呂へと向かった。少し眠かったのだが、そのまま朝まで寝てしまっては温泉宿に来た甲斐が無い。  体がふやけるまで何度でも入らなくてはと欲が出る。  内階段を降りたところに入り口が見えた。   入... 続きをみる

  • 湯煙閑談 2

     老女の佇まいは、落ち着きがあり芯がしっかりしている感じだ。その顔は、化粧を落としていることもあり、皺や浸み、ほくろなども見える。  若い時は嘸かし男達にモテたであろうと想像できる。  胸の膨らみを半分ほど湯から出し、外の景色を眺めている。山間の地ということもあるのか、外界は既に薄暗い。  「少し... 続きをみる

  • 小説 湯煙閑談 1

    須(す)内(うち)守(まもる)は冬の温泉宿に遣って来た。子供達が予約を取ってくれた温泉宿。  妻は足腰に持病があり、須内は長い間妻をサポートして来た。  父親が長い間母を看ていたその労苦を労おうと、子供達がプレゼントしてくれたのだ。  妻の体は思うようには動かせないくらい不自由だったので、温泉には... 続きをみる