大空ひろしのオリジナル小説

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同居 2

 部屋の間取りは3LDK。とは言っても4畳半ぐらいの部屋が二つ。6畳ぐらいの部屋が一つ。そしてLDK。
 正確な広さは分からない。とにかくマンションは壁や柱などにスペースを取られるようだ。


 拓斗は、今までは一番広い部屋に寝泊まりし、狭い部屋2つを物置代わりに使用していた。その手狭な一室が咲季の部屋となった。


「狭いな。これじゃあベッドを置いたら他の物が置けないじゃない」
「仕方ないだろう。これがマンションサイズなんだから」
「ねえ、拓(たく)兄(にい)の部屋と交換しよう?」
 咲季は次男の拓斗を拓兄と呼ぶ。長男の智哉は智兄だ。


「誰がしてやるもんか」
「ケチ」
「その代わり、物置代わりにしている部屋を少し片づけてやるから、そこに物を置いても良いぞ」
「当然よ」


 家族というのは遠慮が無い。好き勝手な要求や発言をする。叶わなければむくれる。咲季は未だ良い方なのかも知れない。


 拓斗は、一緒に暮らすには役割分担が必要と考え、食事や洗い物関係、洗濯、風呂掃除、部屋の掃除機掛けなどを大まかに決める。とにかく最初が肝心だ。
 すると、
「トイレ、気持ち悪いくらい汚かったよ。掃除してんの? 私にさせる気?」


 確かに汚かったかも知れない。掃除なんて1回したかどうかだ。もし、彼女が来るのだったら真っ先に掃除し磨いていただろう。


「トイレ掃除、俺にやらせる気か? これからはお前も使うのだから、納得いくまで掃除しろよ」
「汚すぎる。せめて最初ぐらい拓兄でしょ。見本見せてくれなくちゃ。それに、立ってオシッコしないでよ。回りに跳ねるんだからね」
 やはりうるさい。女は面倒臭いと改めて思う拓斗。


 実家には、建物の中に2カ所と屋外に1カ所と、トイレが3カ所あった。
 実家に居た頃から、2階のトイレは咲季専門だった。なので、用を足す時に座れ、とは言われたことが無い。
 それに掃除は母がしてくれていた。


 夏。兄妹二人の共同生活は意見がぶつかりながらもそれなりに落ち着く。そこに、咲季の友達である女性がマンションを訪ねて来た。
 彼女は短大生。夏休みを利用しての訪問だ。


「いらっしゃい。なっちゃん、久しぶりだね」
 奈津子との再会に懐かしさを感じる拓斗。
「何か変わっちゃったね。男らしくなったみたい。」
「そりゃ、社会に出れば揉まれるからね。自然に逞しくなるよ」


 奈津子と咲季は同級生の幼馴染み。家も近かったので幼い頃は二人で良く遊んでいた。
 二人はお互いの家を行き来していたので、拓斗とも一緒に遊んだことも何度もある。


「都会にこんな部屋を持っているなんて良いなー」
「両親が購入した家よ。何れは拓(たく)兄(にい)の物になるんだけどね」
 咲季が説明する。
「お前達も久しぶりに会ったんだろう? ゆっくり話をしな」
 スマホで常に話し合っていたのだろうけど、顔を見ながら話すのはまた別物。拓斗は気を利かせ、自分の部屋に消えた。


 暫くして、咲季が拓斗に会話に加わるよう呼びに来た。


「あのさ、奈津がね、この部屋に一緒に住みたいんだって」
「何? 短大中退したの?」
「違うよ。来春卒業するでしょ。仕事をするなら東京にしたいのだって。でも、部屋を借りる能力があるかどうか心配なんだってさ」
「私、一人住まいしたこと無いし、お金も家賃払って行けるほどお給料を貰えるか不安なんです」


 咲季と比べて大人しげな感じの奈津子。自分からこのマンションの部屋に住みたいと言い出すとは思えない。恐らく咲季の誘い掛けでは無いかと分析する。


「東京は若い人には魅力だけど、地元で頑張っても良いんじゃ無い? 実家から通えば両親も安心するだろうし」
 拓斗が一人前の物言いをすると、
「何よ。拓兄だって、大学卒業したらサッサと東京に出て行ったじゃ無いの」


 身内とは遣り難い面がある。一緒に暮らして来ているから、性格も行動も知られ過ぎている。
「俺は男だ。大きく羽ばたくには都会が一番手っ取り早いのだよ」
 人生はその人の生まれ持った運に大きく左右される。IQや学歴が高くても成功を成すとは限らないとデーターにも表れている。
一方で、運命はその人の生き方で変えることも出来ると言われている。


 都会に出れば成長する訳では無い。が、遊ぶところは色々あって魅力的なのは間違いない。


「今は男女平等! 男は男はって言う人間は最低よ」
 咲季の言葉は厳しい。



【大空ひろし】ノスタルジー/オリジナル曲