大空ひろしのオリジナル小説

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同居 1

 ある日、佐藤拓斗に母親から連絡が入った。
「咲(さ)季(き)がお前の所に住むと言ってる。嫁に行くまで住まわせてくれ」
「えぇー。何だよ、そっちで就職すれば良いだろ。こっちに来なくたって就職口あるだろ」
「都会じゃ無いと仕事が無いんだってよ。文句を言わずに一緒に住め。そのマンションはお前専用に買って遣ったんじゃないぞ」


 都会に比較的近い地方出身の拓斗。3人兄弟妹の真ん中。長男は実家の家業、農業を継ぐ予定なので拓斗は喜んで都会に出て来た。
 妹の咲季は高校卒業後、デザイナー学校に行って、今春就職する予定だった。


「咲季の就職先は決まったのかよ」
「決まったみたい。お前の所から近いってよ。通勤するのに便利な会社を選んだみたいだ」


 拓斗は都内のマンションの一室に一人で住んでいた。


 実家は農家で、都会の消費需要に乗って景気の良い農家の一つだった。そんな農家をターゲットにしたと思われる電話営業に引っ掛かり、親が購入したのがこの部屋。


 お金を寝かせておくのは勿体ない。資産として残るマンション部屋の購入に投資すべきだとか言われたのだろう。
 上手く言いくるめられたとも言えるが、両親は一向に気にしてない。何れ、次男である拓斗の住居にすれば良いという考えだったからだ。


 多めに頭金を入れたので、残りのローンは月々数万円という少ない金額。それを家賃という形で拓斗に払わせる。
 社会に出て始めから楽させたくないという、子供にとっては有り難くもない親心だ。
 そのような理由から、妹の咲季を受け入れ住まわさなければならなかった。


 一年の間、一人で自由気ままに暮らしていた拓斗。妹が一緒に住むとなれば色々と面倒になる。
 二人で住む以上、家事の分担とかを割り振る必要がある。最も、今まで一人で家事や雑事を熟してきたのだから、一人増えれば却って楽になる筈である。


 所が、一緒に住むとなれば今までのように拓斗が全てを担当するのは不公平に思えるのだ。
 更に、いくら妹とは言え、年頃の娘。彼氏とは違う男、拓斗の視線を気にしたり嫌がったりするのは目に見えている。
 男臭いだの、オナラをするななど、余計な注文を出してくるのは必死。本当に面倒臭いと思う拓斗だ。


 服とか小物類は、咲季自身よりも早く宅配便で送られてきた。ベッドとかは部屋に着いてから購入予定だという。
 部屋に合わせて家具類のコーディネートしていこうと言う考えなのだろう。
一応咲季はデザインというものを学んでいる。


 土曜日。咲季は遣って来た。
「明日、家具屋さんに行くから。店、何処が良いか調べてくれてるよね」
「ああ。一人で行ってきな。バス路線印刷して置いたから」
「何よ。一緒に行ってくれないの?」
(早速これだ。だから嫌だったんだ)
 拓斗は態(わざ)と辟易した表情を見せる。


「お前の買い物だろ。まとめて送って貰えば済むんだから。ベッド担いでくる訳ではあるまいし」
「あのね、母さんが、最初は何も分からないんだから、拓斗に教わるんだよって言ってたんだからね」
「女の買い物に付き合うのは嫌なの。直ぐに決まらずウロウロ長いんだから」
「当然でしょ。より良い物を安く買いたいと思うのは、男も女もないでしょ」


 久しぶりに顔を合わせたと思ったら、直ぐに喧嘩となった。拓斗は仕方なく咲季のお供で家具屋やホームセンターを回ることになった。




【大空ひろし】あした/ オリジナル曲