大空ひろしのオリジナル小説

オリジナル小説や音楽を

同居人 11

 咲季のジョークはジョークで終わらなかった。驚いたのは咲季。まさか自分の出処に秘密が隠れていようとは夢にも思っていなかった。


 咲季は、自分一人だけ家族とは性格が違うとは気付いていた。その理由は、自分の子供の頃に性格が変わるほどの何かを経験したのではと。例えば兄たちに酷く虐められたために気が強くなったとか。今日までおぼろげにそう思っていたのだ。


「いつかは喋らにゃならんと思っていたけどな。実は咲季の両親は別に居た」
「どこに? どうしてそんな大事なこと、もっと早く教えてくれなかったの?
どうして『居た』と過去形なの?」
 矢継ぎ早に質問する咲季に、母は落ち着いて聞くように促す。


「実はな、咲季の両親は交通事故で亡くなったんだ。即死じゃ無かったので、病院に運ばれた。乳児だった咲季は奇跡的に打撲や擦り傷程度で済んだ。だが咲季の両親は危険な状態だった」


 病院に運ばれた咲季ら家族。検査を受けた咲季の父親が、その病院で手術を受ける事になった。が、血液が足りなくなる恐れがあると告げられる。
 父親の血液RH型が特別で、医師から同じ血液型を持つ人が親戚にいたら血液の提供をお願いして欲しいとなった。


 拓斗の母も特別な血液型の持ち主だった。どうやって知ったのか、少し離れた親戚だったが母に連絡が来て、急遽病院へと向かった。


 咲季の本当の母親は既に亡くなっていて、父親も重篤で二日後に息を引き取った。
 結局、拓斗の母は手術には間に合わなかった。


「どうしてお母さんが特別な形の血液型だと知ってたの?」
「智哉の出産の時、血液検査を受けといたのさ。何かあったらと思うと不安だもの」


 咲季の眼から急に涙が溢れ出す。


「ゴメンよ。今まで黙っていて。咲季。咲季はズーッと私たちの子に変わりはないんだよ」
 拓斗の母親は優しく咲季の体を受け止める。



 母の話を聞いて、拓斗は溜息を漏らす。
「そうだったんだ。咲季は俺たちと兄妹の血縁関係は無かったのか」
「残された咲季をどうするかで、向こうさんの祖父母たちと話し合ってね」


 更に状況を説明する母。


 咲季の本当の母親は青森出身だった。父親側の両親は同じ地域で暮らしていたが、運が悪かったのか、その時点では生活にゆとりが無く、その上妻が病気になり、とても幼子を育てられる状況にないと言う。
 母側の青森の両親も色々事情があったようで、やはり引き取りを拒否した。


 仕方が無いので施設にと言ったので、拓斗の母が自分が引き取ると申し出た。
「施設でも大事にしてくれるだろうけど、何か可哀相になってしまって。母ちゃんなら、拓斗が未だおっぱい飲んでいたし、母乳を飲ませられるから」
 もし、自分がもう少し早く病院に着いていればと言う気持ちもあった。


「ねえ、家の近所の人たち、母さんが咲季を連れて来ても何も言われなかったの?」
「勿論可笑しいと思っただろうよ。でも、それを口にしなかった。小さな集団だもの。やたら噂を撒き散らして、仲間内から嫌な目で見られるのは辛いからね。それに、各家庭にも何かしら言われたくないものってあるだろう」


「みんな、近所付き合いを優先したんだ。そう言えば、なっちゃんの家も複雑な事情があるみたいだけど、母さんは知ってる?」
「知ってるよ。狭い所だしね、耳に入って来るさ。でも、それを誰も話題にはしない。よそ様の事をとやかく言っても、何も良い事なんて無いからね」


 直接影響が無ければ、噂を耳にしても関わらないというのが、無難に付き合いを続けられるという事なのだろう。