大空ひろしのオリジナル小説

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同居人 18

「やあ、久しぶり。何か用があるのか?」
 拓斗が声を掛けたのは中学時代の同級生・田中太(たい)智(ち)。


「久しぶりに顔を見たいなと思って。田中の実家に電話したら、東京に行ってるって聞いたんで会いたくなってな」
「俺は別に会いたいとは思ってないよ」
「お前、相変わらずだな。その屈折した性格」
「個性だよ。分かる奴だけが俺と会話が出来る」


「馬鹿か。自分から孤立を求めるなんて。そんなんでよく仕事をさせて貰えるな」
「営業用は別人さ。仕事でこんな偏屈態度したら即クビだよ」
「なんだ。会社ではへいこらしてるのか?」
「処世術。なんだ、佐藤。喧嘩しに来たのか? お前、よっぽど退屈してんだな」


「まあ、そんなところだ。所で田中は今、彼女居るのか?」
「居れば佐藤なんかと会ってないよ。そうか。俺に彼女を紹介してくれって言う魂胆か。ムリムリ」
「その逆。結婚を意識してるのなら彼女を紹介して遣ろうかと思ってな」
「よせよ。お前のお下がりはゴメンだぜ。こぶ付き彼女なんか。托卵を受け入れるなんて未だ早いからな」


「ハハハハ。変わってないな。中学校時代は面白かったが、今は話辛くてしんどいだけだぞ」
「そうか。久しぶりに佐藤にあって、昔を想い出してな。所で、突然何故俺に彼女を紹介する何て言うんだ」
「今は結婚するって難しいだろ。社会人になったら彼女を作るのも大変だ。だからといって、指咥えて何もしなければあっという間にオヤジになってしまう。女も同じ」
「だな。俺なんか長男だしな」


「なんだ。田中って長男だったのか?」
「そんなことも知らなかったのかよ。よく今になって声を掛ける気になったな」
「そうかー、長男か。じゃあ、この話は無しと言うことで」
「おい、ちょっと待てよ。呼び出して「ハイさようなら」は無いだろう。持って来た話ぐらい言えよ。ヤバいのか? 怖いあちら世界の人の娘に手を出したとか」


「一応、素性はまともだ。俺が断言する」
「若しかして、十分年季の入ったオバさんとか、後ろを向いて話したい女の子とかか?」
「興味はあるんだな」
「当然だろ。佐藤だって女に興味があるだろ。そういえば、佐藤自身は彼女居るのか?」


「居る。しかも、結婚も考えている」
「上手いことやったな。やっぱ、年上の女に迫られたのか?」
「いちいち嫌みな事を言うのは、田中の性格が変わってない証拠だな」
「まあまあ、そう言わずに。折角だから後学の為に聞いてやるから。話したいんだろ?」


「ああー、人選失敗。まともな人間に成長しているかと思ったのに」
 拓斗は、咲季の彼氏に田中太智を選んだ失敗を嘆く。
「そう言うなよ。さっき言ったろ。懐かしい同級生に会ったから昔の性格が復活しただけだ」


「じゃあ、今はまともになってると言いたいのか?」
「ああ、会社じゃ少しは慕われる存在だ。女性社員を除いてだが」
「モテないのか? イケメンと言えるタイプでは無いし、まあ妥当かな」
「大概の女性社員は辞めていくし、男性社員に慕われた方が出世が早い。他人が思うほど辛くは無いぞ」


(俺の知り合いはこの程度ばっかだ。ああ面倒臭い。取り敢えず話してやるか)
 言い方は好かないが、「彼女」というワードに食らい付いてくる田中。物は試しで話を進めてみようかなと拓斗は思う。


「今の俺の彼女は奈津子。俺ん家の近くに居た女性」
「若しかして、間谷奈津子? 両親が離婚した・・・」
 やはり田舎の事、お互い公には話さないが、噂としてしっかり広まっていた。


「両親の離婚は関係無いだろう。それに彼女は素直だ。田中みたいに根性がひん曲がっていない」
「言ってくれるね。根性がひん曲がってるのでは無くて、俺のはフレンドリージョーク。馴染みのある奴っきり言わないよ」
「それはどうでも良い。俺は今、奈津子と一緒に住んでいる」
「同棲って奴だ。羨ましい」


「奈津子の事はどうでもいいんだ。彼女を紹介すると言ったのは俺の妹、咲季」
「うっそー。咲季ちゃんなの。是非是非紹介して」
「結構気が強いがそれでも良いのか?」
「うん、咲季ちゃんなら、罵りられたい、虐められたい。十二分に耐えられる」


 まさか、田中太智に咲季がこんなにも人気があったとは、拓斗は驚く。と同時に、気持ち悪い男だと感じるし、咲季に相応しく無いとも感じる。


「やはり、紹介するのは止めとくよ」
「ここまで来て、そんなこと言うなよ。俺が佐藤に嫌われたとしても咲季ちゃんまでも嫌うとは限らないだろ。紹介する気で来たんだろ。一回ぐらい咲季ちゃんに会わせろよ」
 そう言ってニヤけながら、
「きっと美人になっているんだろうな?」
 妄想の世界に没入していく。


 大失敗。【慌てる乞食は貰いが少ない】とはよく言った物。拓斗は事を運ぶのに急ぎ過ぎたと大いに後悔する。



【大空ひろし】駄目なんだから/feat.さとうささら


【今物語のテーマは、一部男の本音をどれだけ書けるかです。女性にとっては不愉快な部分もあると思うので、ビビりながら書いています