大空ひろしのオリジナル小説

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過去から今日は 12

 ロードバイク


 駿人は手賀沼周辺を周回するサイクルロードに来ていた。
 最初は近くのサイクルロードを走っていた。が、その道に出るまでが、車が激しく行き交う道路を走り抜けなければならない。
 短い間隔の信号や混雑した道をロードバイクで走るのはどうも苦手で、とにかくゆったり走れるサイクルロードを求めていた。


 同じバイク乗り仲間から幾つかの場所を教えて貰い、自分に一番合っているなと見つけたのが、この手賀沼ロードだった。


 父親のワゴン車にロードバイクを積み、適当な場所に車を停め、自転車で一周する。
 専用駐車場が備わっている場所もあり、車の駐車場所に困らない。釣り人も居て、勝手知ったる土地なのか、農作業車の邪魔にならない様に、あぜ道に停めている車も多い。


 土日ともなれば、このサイクルロードを多くの自転車が走る。少し離れているが大学が幾つかある。
 自転車なら、手賀沼まで一時間も掛からないので、サークルなのか部活なのかは分からないが、学生らしき若い集団も颯爽と走っている。


 公園や小さなトイレ休憩場所もある。平坦なサイクルロードは、初心者駿人に取って最適だった。
 自然豊かな中におすすめスポットもあり、満足感を満喫できる。


 駿人はトイレを兼ねて小規模休憩場所に寄る。その場所で、数人が腰を下ろして談笑している。
 服装はバラバラだがヘルメットが統一されているところを見ると、学生グループの様だ。
 男2人に女3人。
(羨ましい)
 駿人は横目で見ながら彼らの脇を通る。やはり駿人は、彼女が欲しいのである。



 数週間後。駿人は再びこの地を訪れる。ロードバイクを押して公園のベンチに向かうと、声を掛けて来た女性がいた。
「あんた、素人でしょ」


 余計なお世話ではあったが、声の主が女性だったので、
「うん。未だ始めたばかりなんだ」
 駿人は返答する。
「走り方見て分かる」


 女性は2人。よくよく見ると、前回小規模休憩所であった若者達のヘルメットと同じ物を被っている。


「若しかして、この間休憩していた人たち?」
「そうよ。良く分かったわね」
「ヘルメットがね」
「そうか。記憶力良いんだね。学生さん?」


「いいや。新米社会人」
「そうでしたか。てっきり近くの学生かと思ってた」
「このコースは凄く良いね。俺、気に入っちゃった」
「でしょ。私たちも。・・・少し休んだら一緒に走らない? 走り方教えてあげますよ」
 願ったり叶ったりである。


 駿人は彼女たちに走りの基本のような物を教えて貰う。確かに、彼女たちの指導通り走ると、かなり楽だった。


「ありがとう。またいつ来られるか分からないけど、次会ったら何か奢るね」
 駿人の口から自然にこの言葉が出た。


 苦手意識があった女性との会話。今回は何とスムーズに交わせたことか。
(うん。俺、やれば出来るじゃん)
 駿人は、満足げな表情でバイクを車に積み込み、自宅へと帰った。


 駿人と積極的に会話をしてくれた女性は茉(ま)莉(り)と言う名前。若しかして、また会えるかもと思いつつも、彼は自分の女運のなさから無理だろうなと期待はしていなかった。
 飽くまでも、気晴らしとサイクリングの楽しさを求めて、駿人は三度手賀沼の地を訪れる。


 一面に青く育った稲の田んぼ。風が吹くと稲の先が風に揺れる。その様は、まるで風の尾がなぞるが如く、通った跡を稲の先に描いて行く。
S字だったり、ジグザグだったり、また半円だったりと、一瞬だが、稲に形を描き残す光景が美しい。


 そんな光景に暫く見とれていると、声を掛けて来た女性がいた。その声の持ち主が誰であるか、駿人には一瞬で分かった。


     
【喋る小説】ホラ探偵のらりくらり日記 Ⅱ
前回のパートⅠで、一応読んでというか聴いてくれた人が居たので、調子に乗ってアップした。暇があったら観て下さい。