大空ひろしのオリジナル小説

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過去から今日は 20

 駿人は、暇を見ては秋葉原のメイドカフェを回る。静子の言葉に含みを感じたからだった。
 成美という姉が居る。そして、多分可愛いだろう妹。何ともあやふやな情報を頼りに頑張る。


 最も、駿人には別の思惑もあった。女性というか、女子に慣れて置きたい気持ちだ。
 駿人は元来、メイドカフェなどの場所は好みでは無い。白々しい演技の中に溶け込めない性格だからだ。
 だが、人捜しをしていると言えば、一応名分が立つので羞恥心を取っ払える。


 数軒回ると、慣れた所為か、見栄や羞恥心が薄くなる。そして、その様な物を全て忘れると、こんな世界も悪くないと思い始めた。
 粘りの甲斐があって、遂に駿人が欲しがった反応が返って来た。


「旦那様なんですね。エミーを探しているって人は?」
「エミーちゃん、知ってるの? 会って話したいな」
 奈未の妹の名前など、駿人は知らない。でも、可愛いメイド服の女の子に話を合わせる。


「何を話すんですか?」
「エミーちゃんのお姉さんが心配しててさ。お姉さんはなかなかこういう店には来られないので、僕が代わりに見に来たんだよ」


「えー? エミーはそんなこと言ってないですよ。むしろ、エミーがお姉さんのことを心配してるんですよ」
「どういう事?」
 駿人は問い詰めるように聞く。


「よく知らないけど・・・」
「君にボーナスが付くサービスってあるの?」


「沢山お金使ってくれると・・・」
「よし、そのサービスとやらして欲しい。所で、エミーのお姉さんに関して、もう少しだけ教えて?」
 すると、メイド服の女の子が顔を寄せて小声でぼそぼそと話す。
「分かった。ありがとう」


 駿人は、そのメイドの言うがままのこそばゆいサービスを受ける。少々高く付いたが、駿人にとっては価値のある情報に思えた。


 駿人は三度、八王子の叔父の家に出向いた。そして、いとこの成美の帰宅を待った。


「あのさ、この前秋葉原であった成美ちゃんの友達。奈未って言ったっけ。今、結構ヤバいんだって?」
「突然何よ。駿君、奈未のストーカー遣ってたの?」


「何だよ、女って。ちょっと女性の話をしただけで、直ぐにストーカーとか言うんだから。これじゃあ男は、女に声も掛けられないだろう。女から男を誘う形に変われば別に文句は言わないが」
「だって、駿君、ストーカーになりそうな顔をしてるんだもん」


「ちょっと。幾らいとこだって、それは言い過ぎだろ。親しき仲にも礼儀ありだろ」
「分かったよ。そんな向きになって起こらないでよ」
 成美はにやけながら言う。それがまた、駿人を苛立たせる


「それで、駿君は奈未のどんなことを知っているの?」
「ホストに入れ込んでいるとか」
「よく知っているね。やっぱりストーカーだわ」


「それはもうよしなって。俺は純粋に奈未君を心配しているんだ。成美ちゃんが言ってた、イケメンで格好いい彼氏がいるって、それってホストだろ」
「そう。奈未、そのホストに嵌まっちゃったみたい。もう、夢中なんだよな」


「それでいいのか? 成美ちゃんは?」
「良いとは思ってないけど、恋って何も見えなくなるのよね。私のアドバイスなんて聞かないわよ」


「ホストは商売。女に金を使わすのが仕事。そんなのに惚れるなんて」
「私も一応注意してみたのよ。そしたら、人生に一度の恋。ボロボロになっても良いって言うから。そこまで言われたら、私はもう何も言えないわ」


 確かに、恋という物は理性を狂わす。相手も同じであれば、それはそれで幸せになれるかも知れない。
 しかし、今の奈未の相手は、明らかに金儲け。そこに愛情があるとは思えない。


 帰路に着きながら、駿人は奈未を何とか救いたいと真剣に考える。