過去から今日は 21
「お静、居るか?」
駿人は自分一人の部屋で静子を呼ぶ。
「だから、気安く呼び出すなって言ったでしょ」
「いいじゃん。どうせ暇して退屈なんだろ?」
「まあね」
「あのさ、俺、メイド喫茶行ってきたぞ」
「ウチの言葉を実行したのね」
「おう。それで、大変なことになったんだ」
「あのね、いちいち説明しなくてもウチには大体見えているから」
「なら、話は早い。俺さ、奈未を助けてやりたいんだ」
「人の恋路を邪魔すること無いじゃ無い。皇族長女の恋路を、理不尽な因縁付けてマスコミや民衆が邪魔したのと同じじゃない」
「あれか? 俺はメディアなんかの報道に煽られなかったぞ。マスコミは時々正義も見せるが人を貶めるのも上手だからな」
「正義なんかより、結局お金でしょ。それはどうでも良いけど、どうしたいの?」
「そこなんだよな。奈未に、夢中になってるホストに愛情なんて原子核ほどもないって教えて上げたい」
「幻覚?」
「わりいわりい。お静には化学的なことは分からないよな。とにかく、あの男に、愛情なんて爪の先も無い、全てはお金だと分からせたい。売春の男版じゃん」
「そこまで言って良いの? 人影が無いところで、怖い人が現れるかもよ」
「その気配したら、事前にお静が教えて欲しい。俺、一目散に逃げるから」
駿人の言葉を聞き、静子は笑う。
「だらしが無いな。それで正義の味方、ホワイトナイトになる積もりなの?」
「それそれ。俺、弱いから今回はお静の力を借りたい」
「駿はウチの事、実態が無いのだから役に立たないって言ってたじゃ無い」
「いや、弁慶のように守ってくれとは言わない」
「古い! 駿の頭の中は新旧ごちゃごちゃ。せめて美人SPって言いなさいよ」
「とにかくだ、奈未ちゃんにそのホストは恋する相手では無いと教えたい」
「どうやって?」
「他の女といちゃついている所を写真に撮るとか、札束数えてニヤけている写真を見せるとか」
「それって、探偵の仕事じゃない」
「そうそう。お静にその場面を撮って来て欲しい」
「駿、大丈夫? ウチがカメラを持てる筈ないし、写真なんか撮れるわけ無いでしょ」
「やっぱりそうか。念写っていうのが出来るかと思って」
「ムリムリ」
静子にあっさり否定されて、駿人は難しい表情を浮かべ考える。
「じゃあさー、幽霊になって脅すって言うのはどう? 抑もお静は幽霊と同じなんだから」
「どうやって? ウチは駿だけに見えるし、声が聞こえるのよ」
「そうか。奈未と会う度に、お静が幽霊として出れば、ホストは逃げ出すだろうし、奈未は恐怖で恋の熱も冷めるとんじゃないかと思ったんだけどな。あー、やだやだ。全くもう、お静は糞の役にも立たないんだから」
「何よ、その言い方。駿、言っちゃ悪いけど、イケメンホストに恋した女なんか、駿がどんなにヒーローぶったって、駿なんかに振り向いてはくれないよ。鏡を覗きなさいよ」
怒ったのか、静子は辛辣な言葉を言い放つ。
「分かったよ。作戦を練り直す。あのさ、お願いだから、せめて薄らでも良いから、お静の姿が他の人にも見えるように修行して欲しい。幽霊として役立つから」
「無理!!!」
腹が立ったのか、静子はパッと消えた。