大空ひろしのオリジナル小説

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同居人 8

 拓斗は奈津子に、バイト先の店の道具を調べるように言う。道具の名前が分からなければ、聞くなりスマホで写すようにアドバイスする。
 使用している菓子作りの材料は、分かる限りで妥協する。
 深入りして店主に怪しまれない為にだ。スパイみたいな行為は誰も歓迎されない。


 拓斗の案に咲季も全面協力すると応えた。やはり、甘い物好きの咲季。思う存分食べられるという未来が見える。
 ただし、上手に出来るようになればだが。


 夏を迎えて菓子作りは一時中止となった。暑さで腐敗が早く進む懸念があったからだ。
 その間も3人は無闇に時を過ごしていなかった。


 道具店で購入できなかった物をネット通販で調べたり、甘味処や洋菓子店などを見て回ったりと、特に女性2人は好きなだけに積極的に動く。
 ただ、拓斗と妹の咲季は暦通りに休めるが、奈津子のアルバイト先はお店なので、休みが火曜・水曜と2人とは合わない。
 それもあって、なかなか計画は進んでいない。


「ねえ、梨とか柿とか日本にある果物も工夫すれば使えるんじゃ無い?」
 拓斗がポツリと言う。
「そうね、切り方とか形を工夫したり、何かをプラスするとか・・・。そういえば、実家の柿、使ってみたいね」
 咲季が補足するように拓斗に合わせる。


「おれは素人だけど、柿は甘みの強い物もあるけど、洋菓子には合わない気がする。干し柿は高いし」
「ハッキリ分からないけど、柿は酸味が無いから物足りないのかな?」
「渋みはあるけどね。でも、栗も酸味が無いだろ?」
「そう言えばそうよね。バナナも・・・」
「いっそう、柿ジャムにして使い方を工夫してみようか?」
「ただ、日本産の果物は値が張るのが多いから、安直に使えないのよね」
「俺、親父に。柿や栗など家で成る果物の木を沢山植えて置くように言うわ」


 会話は拓斗と咲季だ。奈津子は黙って2人の会話を聞いている。案外部外者の方が色々なアイディア、提案が出るもの。
 奈津子は2人の会話を聞き、夢が膨らむ。


 様々な挑戦が出来る喜びだけでは無かった。奈津子は、自分の為に真剣に応援してくれる拓斗や咲季の姿が嬉しかったのだ。


 日の短い秋が遣って来た。
 3人は時間を見ては菓子作りに励んだ。少しぐらいの経験では上手く行かないのが世の常。
 失敗を繰り返えすと、時にプチ成功で大喜びしてキャッキャ騒ぐ。それがまた楽しい。
3人の共同生活は実にスムーズ進行して行く。


 一緒に作業を行う。それは拓斗と奈津子のスキンシップにも繋がる。無意識に肌に触れる機会が多くなる。
 そうなると、菓子作り以外でも手を握り合ったり、ハグをしたりするような方向に進んだ。
 ではあるが、それは殆ど短い時間。咲季の目が光っている。


 拓斗は、最初は奈津子を性的なもの以外は女性と見ていなかった。好きでも嫌いでも無い、ややもすると面倒な存在でもあった。


 男として、女性に見られたくない、知られたくない行為もしたい。2人の女性の部屋は鍵が掛かる。
 しかし、拓斗の部屋は入ろうと思えば自由だ。


 偶にはエッチなAVとか観たいし、有り余るエネルギーを発散したい。が、1人の時は自由だったが、今は女性達の目を気にしなければならない。
 だから咲季にしても、特に他人の奈津子は迷惑に感じていた。


 妹の咲季にはきつい言葉で、
「早く寝ろ!」
「俺の部屋に勝手に入るな!」
 など、妹の行動をある程度制約出来た。しかし、奈津子には言い難い。


 その上、住まわせて貰っているという恩を感じているのか、奈津子が休みの日に、掃除機掛けとか片付けとか、共用部分だけでなく拓斗の部屋まで入って綺麗にしてくれる。


 ヤバい物をそこら辺に置けない。パンツ一丁で歩き回ることも出来ない。それなりに神経を使う。


 所が、スキンシップが普通のようになってくると、そんな気遣いが徐々に減り、今では気にしなくなった。
 それこそ奈津子と同棲しているような感じである。


 とは言っても、奈津子との間には性的行為は全く無い。それでも快い空間を感じるのは、若しかしたら拓斗は奈津子を好きになったからなのか。