大空ひろしのオリジナル小説

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同居人 13

 拓斗の胸に埋めたまま、なかなか顔を起こそうとしない咲季に、拓斗は優しく話しかける。
「今度さ、咲季の両親が眠るお墓に行こう。そして、未だ健在だというお婆ちゃんやお爺ちゃんにも会ってこよう」
 咲季は顔を上げ、
「うん」
 と答えた。
 咲季の目は潤んでいたが、顔には涙が流れた後が無かった。拓斗の服で拭いたか?


 拓斗は母親に電話する。
「今度咲季と、咲季の両親の墓参りしてくる。母さんはあちらの住所を知っている?」
 母は勿論だと答える。


 咲季の祖父母は咲季を気に掛けていて、毎年誕生日には何かしらの贈り物をしてくれていた。
 拓斗の母も、やれ立ち歩きを始めただとか、誕生日は勿論、七五三、園児姿、小中高の入学式卒業式など、イベント毎に咲季の写真などを祖父母に送っていた。
 咲季は、決して祖父母たちに見捨てられてはいなかった。


「俺たち、あちらにお邪魔しても良いのかな」
「勿論だとも。喜んでくれるよ」
「所でお婆さんという人は、咲季の両親が交通事故で亡くなった時入院していたと言ってたけど、今は大丈夫なの?」
「あの時は乳癌で入院していた時だった。癌を切り取った後の転移も無く、今は元気で居るよ。癌の初期だったから良かったのね」


 拓人の母と咲季の祖父母との交流は結構密に続いていたらしく、母は相手の状況をよく知っていた。


 長野駅に祖父母が車で迎えに来てくれる。そのまま車で咲季の両親が眠るお墓に向かう。
 手を合わせると、咲季は感慨深そうにお墓を見つめる。涙は見せない。真剣な眼差しは、心の中で両親に語りかけているのだろう。


 みんなで外食すると、祖父母は2人を自宅に招く。
「咲季ちゃん、綺麗になったね。お母さんの面影あるね」
 初めて実物の咲季に会えて、喜びひとしおといった感じだ。


 拓斗は祖父に酒を勧められる。祖母は2階からアルバムを持って来た。
「これが貴方のお父さんとお母さんよ。息子の写真は子供の頃から撮り溜めた物が沢山有るけど、あなたのお母さんの写真は少ないのよね。私たちと別々に暮らしていたからね」


 それでも、咲季の生まれた時の写真とか、両親と一緒に写っている写真が何枚か含まれていた。
「咲季ちゃん可愛かったのよ。これからもっと可愛くなる時だったのにね・・・」
 しょんぼり語る祖母。


 拓斗もアルバムを覗き込む。生まれて間もない咲季の写真。彼には可愛いとかが分からない。乳児はどの子も同じに見えてしまう。


 夜が更けて来た。
 祖母は寝間の用意をしてくれる。部屋は2階。咲季は自分も手伝うと、祖母と一緒に2階に上がる。


 布団二組が既に並べて敷いてあった。タンスなどの物入れが邪魔して二つの布団はくっ付いている。


「この部屋は、貴方のお父さんの部屋だったのよ。今は物置にしてるので狭いけどね。咲季ちゃん、私たちの部屋で寝る?」
「どうしてですか? 気遣いは要らないです。私たち、友達も含めてですけど、3人で共同生活しているので」
 祖母は少し驚いた表情を見せる。


「勘違いしないで下さい。それに私たちはつい最近まで兄妹として暮らしていたんです。真実を知ったからって急に心境は変わらないので。心配要りませんから」
 祖母は安心したように微笑む。
「ごめんなさいね。私は古い人間だから。そうそう、寝間着持って来て無いでしょ。お母さんの形見の浴衣、寝間着代わりに着る?」


 母親の形見の殆どは、青森に住む両親が持ち帰ったという。残ったのが咲季に見せた浴衣一枚だった。
「咲季ちゃんに、何時か来て貰おうと思って、浴衣だけは残して貰ったのよ」
 祖父母の思いが伝わってくるようで、咲季は嬉しかった。




【大空ひろし】あさもや/オリジナル曲