同居人 14
翌日。
「また来てね。青森の、お母さんのご両親の所にも行って上げてね。喜ぶよ。お母さんの写真も一杯あると思うし、話も聞けるよ」」
名残惜しそうに言う祖父母を残して、拓斗と咲季は車を降り駅に向かう。
一週間ぐらいが過ぎた頃、先日お邪魔した祖父母から宅配便が届く。
「信州そばだ。これは美味しそう」
「地元名物お菓子も入っている。奈津のお菓子作りの参考に出来るわね」
そして、クリーニングされた浴衣も入っていた。
「お母さんが着たんだよね。大切にしよう」
咲季は愛おしそうに頬に浴衣を添える。
「その浴衣を着た時、お母さんの臭いがした?」
拓斗が聞いた。
「するわけ無いでしょ。でも、防虫剤の臭いがした」
にこりと笑う咲季。
「咲季のお婆ちゃんが言ってたけど、何れ青森にも行ってみようよ。お母さんの想い出が沢山あるだろうし」
咲季は、母方の祖父母の住所を教えて貰っていた。
「拓兄も一緒に行ってくれる?」
「ああ、都合が付けばな」
咲季の精神的ダメージは、表面的にかなり回復したように見える。
(やはり、墓参りして良かったな)
拓斗は安堵する。
暫く経ったある日の夜。拓斗と咲季と奈津子の3人は缶ビールで乾杯した。
咲季の就職先が決まったのだ。
彼女は、ウェブデザインの会社を選んだ。ここなら、ファッションデザインの能力も生かせるし、また、個人で挑戦していたマンガデザインも生かせる。
この会社は、頼まれれば商品パッケージのデザインなども引き受けていた。小規模の企業や様々な店舗デザインなどの注文もあり、扱う仕事は多種に渡っていた。
「お菓子のデザインや包装など、咲季が考えてくれた作品が生きるといいね。どんどん使って行くべきだよ」
奈津が後押しする。
「うん。何だか遣る気が出て来た」
明るく応える咲季。
夜が更けて来て、咲季は自分の部屋に戻る。奈津子は明日明後日と休みなので後片付けを引き受ける。
拓斗も少し手伝い、自分の部屋に戻る。お酒が入った所為か直ぐに眠ってしまった。
何時頃だろうか。拓斗の部屋に入ってくる者がいた。その人影はそのまま拓斗のベッドに潜り込む。
「えっ、誰?」
その声を塞ぐ手。そして次に唇が。舌が・・・。
奈津子だった。
久しぶりだった。咲季が実家に帰ったその期間に2人は結ばれた。しかし、咲季が戻って来てからは何も出来なかった。
欲求不満に耐えながらも、拓斗の性格、焦らないを保って来たのだ。
小一時間ほどで奈津子は自分の部屋に戻った。
翌朝、拓斗は何時もの様に朝食を摂る。
3人とも朝食の主食はパンが殆ど。バターやチーズ、ハム、目玉焼き。昨夕の残り物なども時々食す。
全員出勤日の場合は、各自が適当に用意し、食べて、各自の出勤時間に部屋を出る。
今朝は、朝食の用意が出来ていた。奈津子が休みの時に、出勤する拓斗や咲季の為に時々朝食を用意してくれる。特別なことでは無い。
今朝の2人の食事は殆ど会話が無い。会話が必要ない程お互いスッキリした表情を見せていた。
拓斗が出勤後暫くして咲季が現れた。
「朝食出来てるよ」
「ありがとう」
黙々と食事をする咲季。
「いよいよ、来週から出勤ね」
「うん」
機嫌が悪いのか、咲季の口数が少ない。
奈津子がソファーに座りノートパソコンを開いていると、咲季が隣に座った。
「ねえ、いつからなの?」
「えっ、何が?」
「お兄ちゃんと関係したんでしょ?」
「関係したって、何の事?」
奈津子はとぼけて見せたが、咲季にズバリ言われて内心動揺する。
女性の勘の鋭さか、咲季は2人の関係を知っていた。