同居人 16
「ねえ、奈津の事だけど、そろそろ自立しても良いと思うの」
咲季が拓斗に話しかける。
「どういう事?」
「だって、1人で生活するとなると、総て自分で遣らなければ駄目でしょ? しっかりしなきゃあと、嫌でも自覚するでしょ。微(ぬ)温(るま)湯(ゆ)の此処に居るより早く成長するでしょ」
「どうかな? 人間色々だよ。一人暮らしの生活がその人を成長させるかどうかは、その人に依るだろ」
「奈津は成長しないというの?」
「そうだな。奈津は未だパートだし収入も少ない。1人で暮らすとなると経済的に苦しい。お金が無ければ意欲さえ失うかも知れない。そうなったら可哀相だろう」
「家賃なら、拓兄が補助して上げれば?」
どうしても共同生活から奈津を追い出したい咲季。
「それじゃあ、独立の意味が無いだろう。それに、俺が反対したのに奈津をこの家に住まわせたのは咲季だろ。どう言う心境の変化だ?」
「時間が経てば色々変わるのよ。それに、本当は、拓兄は奈津と一緒方が良いんじゃ無いの?」
「どうして俺が?」
「だって、常にラブラブで居たいんでしょ?」
咲季は、果敢に突っ込んで来た。
「成る程ね。咲季は俺が奈津とイチャイチャするのを見たくないんだ」
本当の兄妹であったなら、咲季の言葉を一蹴するか、またはプライバシーに入り込むなと怒っていただろう。
しかし、今は何かにつけて躊躇してしまう拓斗。
拓斗は思案を巡らし、咲季に問う。
「もう俺と奈津の間は知っているようだな。所で咲季は、妹として嫌なのか? それとも女として嫌なのか?」
直ぐさま、
「両方」
「そうか。でもさ、咲季の前ではそんな事してないだろ?」
「それでも嫌!」
拓斗は、もうお手上げという感じだ。
「じゃあさ、奈津と結婚しちまうか」
「それも嫌!」
思わず咲季の口から出てしまった。
拓斗は咲季の眼をジーッと覗き込む。
「だって、拓兄が結婚したら、私、追い出されるんだもん」
いじけるように言う咲季。
咲季を妹として可愛いと思う拓斗。なので咲季も大切にしたい。
「分かった。これからは咲季の気持ちを汲んで、気を付けるから」
拓斗には、良い解決方法が思いつかなかった。咲季にしてみれば、そういうことでは無いと言いたいところ。
一方、咲季が恋敵的存在と明白になった以上、安穏としてられないのが奈津子。
咲季とはお互い信頼し合う親友ではあるが、恋に関しては別と奈津子は割り切った。
咲季と奈津子を並べてみれば、ファッション関係を目指していた咲季はスレンダーで、顔も美人系。
一方奈津子は、ぽっちゃり型で普通に見掛ける顔立ち。
男にしてみれば、外見だけで判断すれば咲季に軍配を上げるだろう。
しかし、性格とか立ち居振る舞いを見れば、自分にも勝ち目はあると、内心自負する奈津子。
それに、奈津子は拓斗と関係を持った。それが強みと言えばそう言える。
男女関係無く、殆どの人は深い関係を持った相手に愛を深める。
しかし世の中そう美談には進まないことが現実。男にも女にも邪な考えが浮かぶ。
単に金の為とか排泄の為とかだけの男も居るが、そんなのは論外と言いたい。しょうもない男、また、愛情を切り離して対応する女。その様な人物と縁を持ってしまうのはその人の運命みたいなもの。
宿命だけに避けられない場合も多いが。
拓斗と奈津子はと言うと、関係を結んだという繋がりの強さだけでは無い。
拓斗は奈津子と居ると安心でき、豊かな気分になれる。奈津子は理由など必要なく拓斗が好き。
なので少なくとも、現在の所二人は上手く行っていた。
それ故に、咲季の入る隙間は無いと言える。