大空ひろしのオリジナル小説

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同居人 20

 拓斗の後押しで行きたがらない咲季を説得し、田中とのデートは何とか成立させた。


「アニメ面白かったか? どんなアニメを観て来たんだ?」
「ゴジラ」
「それ、アニメじゃ無いじゃん」
「だって、綺麗なアニメ画を見せられたら、私、コンプレックスでマンガ描けなくなるもん」
「そうか。咲季の絵は未だ未だだもんな。でもな、絵の画力よりストーリーの方が重要じゃないか? 絵が下手でも人気の漫画家が居るんだし」
「ストーリーねー」


「例えばだ、奈津をロールモデルにするとか。そのまま描いたら奈津のプライバシーを晒す事になるから、設定をデフォルメするか完全に別にする。そうだ、相手の男は俺で無くて田中にしろ。超デフォルメすれば奴だってイケメンモテ男に描けるだろ」
「田中さんね。悪いけどイメージ湧かない」
「田中はあれで親しくなれば面白い人間だぞ。好きにならなくてもストーリーの参考モデルには出来るぞ」
「そうかな? でも、幾ら漫画家が私の思いにあっても、マンガの為に何かを犠牲にまではしたくない」 


 これはどう言う意味か? 拓斗には掴めない。ただハッキリ言えるのは、田中は咲季のテリトリーに入る余地がない事。


 その夜、その田中から拓斗に電話が掛かって来た。
「やー、咲季とは上手く行ったのか?」
「それどころじゃ無いぞ。咲季ちゃんはお前のことばかり聞いたり話題にする。若しかして、お前達禁断の兄妹愛じゃないのか?」


 拓斗は焦る。
「何言ってんだよ。気持ち悪いこと言うなよ。確かに妹として咲季は大切にすべき存在。咲季だって俺のことをそう思っているだけだよ」
「そうか? それにしては咲季ちゃんの質問の仕方、そんな感じには見えなかったぞ。あのさ、佐藤自信の事なら、俺に聞くまでも無く、兄妹として一緒に暮らしてきたんだから、彼女の方がよっぽど知ってるだろ」
 拓斗は、咲季が田中に話し掛けた内容を知りたかった。が、恐ろしさが先にたって聞けない。


 仕方なく、
「俺、言ったよな。咲季は漫画家を目指しているって。咲季は今、少年時代を話題にしたマンガを描いているんだ。小学生とか中学生時代の男同士ってどんなのかって。だから、その頃の俺の姿を参考にしようとしている。そんなの、幾ら一緒に住んでいても分からないし、俺もあからさまに言いたくないよ」
「そうかな? 何かそんな感じでは無かった気がする」
 田中の疑いは晴れない。


「そんな事より、咲季に少しは気に入られたのかよ?」
「多分、それは無理。でも、やっぱり咲季ちゃんって可愛いな。美人タイプだけど可愛い」
 勝手にしろと言いたい拓斗。拓斗の中では、田中は咲季の相手として失格というレッテルを貼る。


 拓斗は悩む。咲季は拓斗を諦めていないようだ。咲季が嫌いで無いだけに拓斗の気持ちは揺れる。
(一層のこと、奈津と結婚してしまうか。そうなれば、咲季も諦めがつくだろう)
 と、思う拓斗。


 誠の兄妹で無いなら、拓斗と咲季の関係が愛で結ばれたとしても、法律的に世間体でも二人の関係は容認されるだろう。
 だが、咲季の乳児期経緯を知る前に、既に奈津と深い関係になった事。もう一つ、やはり兄妹として生きて来た思いが、拓斗を悩ます。
 具体的に言えば、奈津には性欲を感じるが、咲季には、今現在は性の対象として見られないのだ。


 今現在の気持ち、それは何れ変わるかも知れないと拓斗も内心思うところ。その変心がどんな結果をもたらすのか、拓斗はとても不安なのだ。
 この件に関しては、彼は好きだ嫌いだで進むべきで無いと考えている。