大空ひろしのオリジナル小説

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過去から今日は 15

 経験値


 駿人と茉莉の仲は順調に進む。ロードバイクで一緒にサイクリングコースを走る。それがやがて、自転車を離れてもデートをするようになる。


 茉莉は学生。普通の家庭出身なので当然お金に余裕が無い。何処に行くにも交通費、食事代を駿人が出していた。
 駿人はそれを惜しいとは思わない。


 初めての、所謂彼女と呼べる女性。初キスもした。軽く身体も触らせてくれた。その先が待ち遠しくて堪らない。
「茉莉が欲しい」
 駿人は遂に思いを告げた。
 静子の愛人、士官候補生・昭一の様に思い切って言ってみたのだ。
「いいよ」
 意外にもあっさり答えてくれた。


 余りにも簡単に応じてくれたのが、駿人を気持ちを少し不安にさせるから不思議だ。
(若しかして、茉莉は結構男と遊んでいるのでは?)
 駿人が茉莉を好きになったばかりに湧き上がる複雑な気持ちだ。


 とはいえ、例えどうであろうと欲情が優先するのが男。2人はラブホテルに入る。
 一度は経験済みのラブホテル。駿人に不安は無い。



「とうとう念願叶ったな。彼女を作れたし、一緒に寝られたじゃない。どうやら、生命の傾向性が駿の望む方向に向いてくれたのかも知れないね」
 久しぶりに静子が現れ言う。


「それなら良いけど」
「何だ? 思いが叶ったというのに、不満なのか?」
「茉莉は結構遊んでいるみたいなんだ」
「男との経験が十分過ぎる程あるというのか?」


「うん。あの時も全く緊張した様子が無いし」
「まさか、以前の風俗嬢みたいな対応だったのか? 可哀相・・・」
「そこまででは無かったけど。やっぱり俺、可哀相過ぎでしょ?」
「そうなのか? 所で、駿は今後も茉莉と逢いたいと思っているの?」


「うん。お静の前だから言うけど、好きになっちゃったからな」
「茉莉の方は? 次のデートの約束したの?」 
【LINEでは話している。お互い色々都合があるから未だ次の日程は決めて無い」
「良かったじゃ無い。少なくともあっちの方は茉莉に及第点を貰ってると言うことだから」


「あっちの方って?」
「馬鹿ね。言わせないでよ。体験豊富なんでしょ。なのに、経験の浅い駿をOKしたんでしょ。だから、これからも付き合ってくれるんじゃ無い。喜ぶべきよ」


「ちょっと待てよ。茉莉が経験豊富だというのは俺の想像。彼女が遊び人かどうかは分からないよ」
「ハイハイ。何れにしても、愛に他の男と関係が深いだ数が多いだなんて事を挟むのが可笑しいよ」


「好きだからこそ、気になるんだ。嫉妬するんだよ。男は女と違う」
「そんなに変わらないと思うけどな。ウチらの時代だって、夜這いの習慣があった。江戸時代なんて性に関して大らかだったのよ。今また、そんな時代になったと思えば良いじゃ無い」


「そんな簡単に言わないでよ。気持ちはそう簡単に割り切れないもんなんだ」
「だったら、駿も茉莉と付き合いながら他の女と付き合えば良いじゃ無いか」


「そんな器用な事は出来ない。愛など関係無いホストとは、俺は違う」
「あー、嫌だ嫌だ。面倒な未来身だな。もう、茉莉を諦めなさいよ!」
「いや、俺は諦めない」
「勝手にしなさい」
 静子は消えた。


 茉莉との仲は直ぐには壊れなかった。毎回とは行かないが、関係を持った後は、駿人の気持ちも最初の頃とは違って来ている。
 駿人は、気持ちのどこかに茉莉との結婚を考えていた。未だ大学を卒業していない茉莉に、その様な言葉を匂わすのは早過ぎるとは思っているが。


 とはいえ、叔父の家での話が頭の中でチラチラする。
 従兄弟である賢治の母親が、息子の結婚を心配し、どんな形であれ、早く結婚して親を安心させて欲しいと言っていた。
 駿人の両親も、そんな気持ちでいるのかと気にはなる。



【song】駄目なんだから