大空ひろしのオリジナル小説

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過去から今日は 16

 今まで彼女が居なかった駿人に、どう間違えたのか待望の彼女が出来た。しかし、彼はそれで喜び安心した訳では無い。
 ややもすると、彼女を手放したら二度と自分に、彼女なり結婚相手が現れないのでは無いかと時々不安になる。
 何せ、自分の過去身である静子は、男に対して手玉に取るように冷たく接して来た。
 未来身の自分がその行いの責任を取らなければならないのなら、自分は今後、女性との縁は期待できない公算が高い。


「おーい、お静。聞こえるか?」
 暫くして、
「うるさいな。気易く呼び出さないでよ」
「あんたさ、普段何してんの?」
「聞くなよ。ウチだって良く分からないんだから」
「よくそれで、現れられるな? 天空から俺を見ているのか?」
「気づくとそういう時もある。実際問題、ウチに心があるのかどうかも分からないのよ」


「魂ってそんな存在なんだ。所でさ、お静が死にかけていた時に、訳の分からぬまま俺の前に現れたんだろ。あれから随分時間が経っているけど、結局お静の命は助かったと言う事なのか?」
「どうやらウチは、時間という概念が無い超異次元世界に居るみたい」


「ほほー。何だか分からないけど、本当はもう死んでいるんじゃ無いのか?」
「馬鹿言わないでよ。だとしたら私の子、助からないと言う事よ」
「だってさ、何時までも今世に留まっているんだもの」
「そうなのよ。ウチも段々、どうでも良くなってきちゃた」
「『子供の命がー』て、騒いだのに? どうでも良くなった? 何それ? まさか、この世に居座り続けるってならないよな」


「なによ。駿はウチを過去に追い遣りたいの?」
「そうだよ。やたら付き纏(まと)われると不安になる。ストレスが堪るんだよ」
「そうなのね。ウチもね、白黒付けて早く過去に戻りたいわ」
「お静が死んだら戻れるんじゃ無い? もう一回、海に入ったら?」
「どうしてもウチを消したいのね。だけどね駿、私は自ら命を絶とうとした人間。もし死んだら、未来身である駿は大病を患うかも知れないよ」
「どうして?」
「自分の命を捨てたのよ。要らないって放棄したの。自分の健康な身体を粗末にしたのよ。だから、今度は駿が病気で、凄ーく苦しむかも。いや、病気だけで無く事故とかであの世行きになるかもよ」
「恐ろしい予言をするな。俺、あんたが嫌いだよ」
「好き嫌い言ってもどうにもならないでしょ。何故ウチを排除したがるの?」
 駿人は静子の問いに、なかなか答えられない。


「お静が居ると、茉莉との仲が壊れるんじゃ無いかと思って・・・」
「茉莉がそのような事を匂わし始めたの?」
「最近、LINEの返事がね」
「もうじき卒業でしょ。卒論とか言うので忙しいんじゃ無い?」
「そうかな? 俺は余り悩まなかったけどな?」
「若しかして、新しい男が出来て、その男と卒業旅行に行きたいと思っていたりして」
「言うな! よくそんな事を言えるな。俺の胸に刺さるじゃ無いか。痛過ぎる」


「気にすんなって。地球に居る人間の半分は女だ。ただ、年配者と子供を抜くとまあまあ減るけどね。更に、結婚している女性を除くと・・・。案外少なくなるな。そうだ、多分、駿には縁の無いだろう外国人女性も除かなくちゃ」
「止めろ! もういい。消えてくれ。呼んだ俺が馬鹿だった」


「駿。茉莉の態度次第ではすんなり諦めるのよ。ストーカーなんかにならないでよ。折角良い方向に向いた筈なんだから」
「筈かー。確実じゃ無いんだな」
「確実にするのは駿次第。頑張れ」
「慰めにも、励ましにもならない言葉、ありがとう」
 駿人は、静子が何の役にも立たないと知り、がっかりする。


(新たな男と卒業旅行かよ)
 まだ、全く分からないのに、静子の言葉が駿人の頭の中でガンガン広がる。