大空ひろしのオリジナル小説

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過去から今日は 18

 違った真実


 母親には豪放磊落という表現が相応しい。しかも、遠慮無くドシドシ駿人の心の中に入って来る。
 駿人はどちらかというと父親似。大人しく、見た目より神経は繊細だ。


 そんな息子の性格を知ってか知らぬのか。母親は言い難(にく)いことでもズバズバ話してくる。
 当然、青少年時代の駿人としては心が傷つき母親を憎むことがあった。しかし、大人になり振り返れば、そのことが返って駿人を救ってくれたと思う所も数多い。


 父は、そんな母が好きになったのか、それとも押し切られたのか? 何れにしても、今は問題なく夫婦で居るので、これはこれで良かったのだろう。
 そんな母親の性格を少し貰えば良かったのだろうが、駿人は結構こだわる性格だった。


 最近駿人は、土日休みのどちらかの日には、手賀沼のサイクルロードを走る。身体を鍛えるためでは無い。茉莉の姿を求めているのだ。
 本当は、ストーカーまがいな事をしたくない。会って嫌みの一言でも言いたいのだ。とはいえ、その行為自体がストーカーみたいな物だが。


 1ヶ月ぐらい過ぎたある日。この日は冬の季節の割には比較的暖かかった。それもあってか、ロードバイク乗りが多かった。
 駿人は、走りながらもバイク乗りの女性に視線を向ける。というより、茉莉が愛用しているヘルメットを探しているのだ。


 そんな時、やっと茉莉と同じヘルメットを被った女性を見つけた。声を掛けると、最初に茉莉から走り方を学んだ時、一緒に居た女性だった。
 駿人は彼女を呼び止める。
 彼女も駿人を覚えていたのか、気軽に応じてくれた。
  
「今日は茉莉ちゃんと一緒じゃ無いんだね」
「先輩ですか? 先輩は今バイトで忙しいんですって」
 彼女は茉莉の後輩のようだ。


「バイトかー。どんなバイトしてるの?」
 それとなく聞く。
「詳しくは知らないんですが、食べ物関係の店みたいですよ」


「卒業旅行って結構みんなするよね。その資金を稼いでいるのかな?」
「先輩は卒業旅行には行かないと思います」


「どうして?」
「だって、もう行って来たと言ってましたから」


「何処に? 海外かな?」
「温泉旅行。でも、あれって卒業旅行って言えるのかな?」


「誰と?」
「先輩のお父さんと」
 駿人にとっては予想外な言葉だった。


 駿人は、静子の言葉をストレートに受け止め、茉莉はてっきりパパ活で金持ちおやじと旅行に行ったと信じ切っていたのだ。


「お父さんと? 卒業旅行としては随分と面白い組み合わせだな?」
 駿人は完全に信じ切れず、呟く。


 すると、後輩に当たる女性は旅行に行った事情を駿人に話す。


 茉莉の母親は数年前に亡くなった。茉莉は父親と2人で暮らしている。茉莉は4人兄弟姉妹の末っ子。
 上の2人は既に結婚している。茉莉の直ぐ年上の兄は一人暮らし。


 兄弟姉妹は、母親の三回忌が済んだところで、父親を労う積もりで父の温泉旅行招待を考えた。
 上の3人は働いているので、お金を出し合い、末っ子の茉莉はお金を出さない代わりに、父親の付き添いをすると決まった。


 さすがに若い茉莉は、父親との旅行を渋ったが、生きている内に親孝行をしたいという兄や姉たちの言い分に負けた。
 母親には、親孝行も出来なかったという残念な気持ちからだった。


「そうだったんだ」
 パパ活旅行と疑った自分を情けなく思う駿人。
「でも、先輩もそれなりに楽しんだみたいですよ。温泉は定番として、そのほかは自分の行きたい所に行ったみたいですよ」


「どんな所に?」
「スキー場だとか言ってました。先輩は、温泉地をスキー場近くにしたそうです」


「ほんとに? お父さん、旅行楽しめたのかな?」
「どうでしょうね。でも、子供達に旅行プレゼントして貰っただけでも嬉しかったのではないでしょうか」


「そうかも知れないね。何となく分かる」
「先輩が偉いなと思うのは、自分の遊び分は自分で稼いだと言う事」


「成る程。自分の分ぐらいは自分でお金を出そうとした訳か。それでバイトなんだ。今も続けているところを見ると、かなり予算オーバーしたのかな?」
「それもあるかも知れないけど、何か、お金を稼ぐことに目覚めちゃったみたい」


「ハッハッハッハ。自分の自由になるお金が増えるのは、凄い魅力だもんな」
駿人は何故か異様に明るくなり、笑う。