過去から今日は 24
駿人は物陰に隠れる。そして、二人が目の前に来た時、
「奈未ちゃん。そんな男と一緒にいたら駄目だ」
嫉妬心が我を忘れさせたのか、見境も無く2人の前に出て叫んだ。
「なんだ、てめえ」
男は駿人に近づき、いきなりパンチを放った。パンチの勢いに負けて、無残にも腰が砕ける駿人。
鼻の辺りを手で拭うと赤い血が付いた。
「ぶっ殺してやろうか?」
その言葉に、駿人は腰を落としたまま掌を男に出しながら、自分の顔を隠すように前に突き出し、無言で何度も頭を下げる。
「今度、俺の前に現れたら、ぶっ殺してやるからな!」、
男は捨て台詞を吐き、奈未を引き寄せ意気揚々と去って行った。
駿人の部屋。
「弱い、弱過ぎる。そんなに弱いのに、よくホスト野郎に因縁付けたな」
「うるさい。呼んでいないのに出てくるな」
鼻血は止まったが、痛みは残る。心配なのは、鼻の骨が折れていないかどうかだ。
その鼻を気にしながら、現れた静子を睨み付ける。
「ヒーローにでも成りたかったのか?」
「そんなんじゃ無い。頭に血が上ってかーっとなり、気がついたらあいつの前で怒鳴っていた」
「でもさ、あれじゃあ、益々奈未がホストを好きになっちゃうよ。強いし、格好良いし。ウチだって惚れちゃうかもよ」
「糞食らえだ。お静があんな男に惚れるなら、俺は死んだ方が増しだ」
「おー? ウチに気があるのか。それだけは止めろよな。気持ち悪いから」
「誰が惚れるか。過去身の自分になんか惚れるわけが無いだろ」
「分かんないよ。ナルシストという言葉があるらしいじゃない」
「意味が違うだろ。俺たちには当て嵌まらない」
「まあ、それは良いとして、駿人は痛い思いをしただろうが、結果オーライだよ」
「殴られたのにか?」
「そう。傷害罪で訴えて遣れば良い。警察が絡めば、奈未も多少頭が冷えるんじゃない?」
「俺は嫌だ。恥だよ。そんなみっとも無い事を世間に晒したら、会社に行けなくなる」
「そんな事は無いと思うけどな。しょうがない、無駄骨も止む無しか。鼻の骨、折れてんのか?」
この件を境に、駿人は奈未をきっぱりと忘れることにした。やはり駿人は女運が悪いようだ。
春も近づき暖かな陽気が増えて来た。
そんなある日、紀田家に成美の兄、和雅が遣って来た。駿人に会いに来たのだ。
「和さんも俺のこと、あざ笑いに来たの?」
「殴られて鼻血を出したことかい?」
「うん」
「そりゃ、しょうがないよ。相手は喧嘩に慣れてたんだろう。気にすんなって」
「さすが和さんだな」
「それよりも、駿君に朗報があるんだ」
「何ですか?」
朗報と聞いて、駿人の気持ちが少し和らぐ。何しろ、ここのところ少しも楽しい事が無かった。
「実はね、俺、招待状のような物を預かってきたんだ」
「招待状?」
「まあ、手作りみたいな物だけどね」
「どんな物なんですか?」
和雅は名刺サイズの印刷物を駿人に差し出す。