大空ひろしのオリジナル小説

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過去から今日は 25

「これって、メイド喫茶の招待券?」
「そうだって。成美が言ってた。成美が奈未君から預かったんだって。駿君に渡してくれって」


 親しくなったお客に、個人的に渡す招待券だという。勿論、お店のオーナーも賛同済みの物。


「若しかして、奈未ちゃんの妹さんから?」
「そう。お姉さんを救い出してくれたお礼だって」


「俺、何もしてないよ。殴られただけだよ?」
「どうやら、その時の暴力行為を見て、奈未君はホスト男のDVを連想して怖くなったみたいだ。それで、一気に熱が冷めたらしい」
 やっと、駿人にも合点がいく。


「でも、妹さんからなんだね」
 さすがに奈未本人からは言葉を掛けにくいのか?
「奈未君がホストが嫌いになったからといって、彼女が駿君を好きになるとは限らないからね。駿君も奈未君を彼女にしたいなんて思わない事だね」


 やはり、いちいち言い難いことをズバズバ言ってくる和雅。もう少し思いやりを持ってくれれば、素晴らしい兄貴分なのだけどと、駿人は心の中で呟く。


 ともあれ、招待を受けたからには行かねばならない。駿人は、奈未の妹はどんな女の子なのかと、少々心をときめかせる。
 彼は、未だ奈未の妹とは会ったことも、姿を見たことも無かったのだ。



「駿、良かったな。少なくとも感謝してくれる女性が現れて」
 静子の声だ。
「それこそ、怪我の功名だな」


「おう。なかなか上手いこと言うじゃ無い。駿もそんな言葉知っていたのか? まあ、鼻の骨も折れてなかったようだし、顔の腫れもすっかり直っているし、万々歳だな」
「俺にも運が向いて来たのかも知れないな。幸運の芽が、ニョキニョキと」


「甘い! 奈未の妹が彼女になってくれるとは限らないんだよ。それに、お姉ちゃんは美人だけど、妹も美人だとは成らない場合も多いしな」
「お静は、折角俺が良い気分に浸っている時に、崖から突き落とすような言い方をするんだから」


「だってさ、事実は小説より奇なりで、とんでもない化け物かも知れないでしょ」
「それは無い。断言できる。そんなんだったら、お店で雇わないだろ。例えアルバイトでも」


「おう。ウチの指導が良いのか、推理が鋭くなってるな」
「本当は、お静は奈未の妹を、もう知ってるんじゃ無いのか?」
「まあな」
「あっ、言わなくて言い。店に行ってからのお楽しみにしたいから」
「うんうん、その方が良い。知るのは出来るだけ後の方が。色々な」
 実に含みを持った言い方をする静子。


「付き合いたいと思ってるなら、十分作戦を練っておきなよ。じゃあね」
 静子は消えた。


 最近は毒舌度が増して来た感じの静子。だが、駿人はそんな静子の言動に慣れてきている。
 むしろ、他人は別だが、静子なら毒舌だろうが何だろうが、きっぱり指摘してくれた方がスッキリする。
 まるで、自分の母親の様な感じだなと駿人は思う。


 駿人は、和雅から渡された招待券成る物をじっくり眺める。手作り感溢れるパソコンを使って作った招待券。
【紀田駿人様特別ご招待券】
 と書かれてあり、周辺を可愛い模様で彩られたプリント券。
 駿人はその招待券を持ってメイド喫茶に行く。


【数日団体旅行に行くので、連載を休みます】