大空ひろしのオリジナル小説

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過去から今日は 26

 少し前に数件覗いて歩いたので、店の場所は殆ど迷わずに駿人は目的の喫茶店に辿り着いた。


 エミーこと、本名・美奈。
 顔は姉の奈未と余り似ていない。奈未の方が美人だった。だが、駿人には美奈の方が何となく惹かれる。
「お姉ちゃんを別れさせてくれてありがとう」
 声は可愛い。甘い声はメイドバイトで鍛えたか?


「いいや・・・」
「殴られたんでしょ。鼻血、大丈夫でしたか?」


(おいおい、そこまで知られてるのかよ。一体誰が喋った? そうか、奈未か。現場に居たんだもんな)
 駿人は頭の中で勝手に問答する。


「いやー、大したことなかったよ。俺、喧嘩弱いから一発でダウンしちまった」
「喧嘩が強くったって、人を騙して良い思いしている人なんか、エミーは嫌いです」
 嬉しいことを言ってくれる。駿人は一遍で妹の美奈を好きになる。


「これ、ありがとう」
 駿人は、内ポケットから和雅から貰った招待券を取り出す。
「私の招待券ね。来て貰えて嬉しいです」
 そう言いながら、美奈は駿人の手を両手で自分の掌中に収め、そっとの胸に引き寄せる。
 正にスペシャルサービス。


 勿論、ブラや服の上からだが、何となくこんもりした感覚が伝わってくる。駿人の脳は感激で一杯になる。



「おう、駿よ。メイドの妹に会って来たか?」
「知ってる癖に」
 駿人は静子に、ニヤけた顔をして答える。とにかく気分は最高。


「何だよ、あの程度の事でニヤけてさ。茉莉とはもっと楽しいこと、気持ちの良いことしたんだろが」
 茉莉は少し前の駿人の彼女。


「あれはあれ。これはこれ。それに、茉莉はもう居ない」
「全く駿は惚れやすいんだから。美奈って子も、商売上のリップサービスよ」


「いや違う。彼女は違う。俺の会った女の子の中で一番純粋!」
「もー、遣ってられないよ。甘い言葉を囁かれると、直ぐに惚れちゃうんだから」


「いいんだも~ん」
「ばっかじゃ無い。直ぐ感化されちゃって。気持ち悪いんだよ、その言い方」


「あのさ、人が心地よい気分で居るのに、邪魔しないでくれない?」
「食事なんか誘っちゃって。よくあの子がOKしたな」


「そうなんだよな。ダメ元で言ったんだけど乗って来た」
「『お姉さんのその後どうなったか詳しく教えて欲しいな。食事しながら』なんて言葉に、『これはただ飯が食える。誘いに乗ってやっか』みたいなんだよ」
 静子が意地悪く言う。


「理由はどうであれ、縁が生まれた。お静も言ってたろ。良い縁をどんどん創っていけば、生命の傾向性が良い方向に向かうって」
「そうなんだけどさ。美奈って子が良い縁に当たるかどうかは未だ分かんないからね」


「焼いてんのか?」
「自分の未来身に誰が焼き餅焼くか! また失恋して泣きべそをかく姿を見たくないんだよ。情けなくて」


「はいはい。そうならないよう、今度は頑張ります。ハイさようなら」
 駿人は追い出すように静子に言い放つ。


【 旅は少人数に限る。特に自分は一人旅派。性格的には独歩的。大勢の人と戯れるのはとても苦手。まあ、様々な人が集まって居るのが社会だから強いこだわりは控えているが】


稲刈り後の田んぼ。9月の高温気候が影響したのか沢山の稲穂が付いている。もっとも
白穂止まりで米までには実らないだろう。