大空ひろしのオリジナル小説

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過去から今日は 22

 チャンス


 最近の駿人は、何とか奈未とイケメンホストを切り離す手立てはないものかと思案ばかりしている。
 元々IQが高いとは自分でも思っていないが、余りに策が浮かばないので自分に対し不機嫌になっている。
 更に、静子とは喧嘩別れのようになり、ここのところ、とんと現れない。


「おーい、お静さんよ。俺、言い過ぎた。悪かった。で、さあ、どうせその辺ふわふわ浮いているんだろ。話、しようよ」
 多少言い方は違うが、駿人はこのように幾度と無く静子を誘う。


 何度目だろうか。やっと静子が現れた。
「うるさいな。ウチは今、天国に行く方法を一生懸命探していて、忙しいのよ」


「俺のサポートを続ければ、多分天国に行けると思うけどな」
「駿の言葉など信じられるか。全く、少し難しくなると、目の前の案件も対処出来ない癖に」


「そうなんだよな。こんな俺にしたのはお静の過去身の所為だったんだよな」
「おう。ウチに、自分の不徳の全てを被せようと言うのかい」


「違うの? 違わないでしょ」
「あのね、ウチは美人だし利口な女性だったの。何で駿みたいなぼんくら頭に成らなければいけなかったのかしら?」


「頭の良さを鼻に掛けて来たからでしょ」
「まあねー。何て言ったって、隠そうと思っても教養が滲み出ちゃうだもんな」


「おう、おう。その教養っていうのを俺の為にも貸してくれ」
「抑も教養とアイディアは違うんだけどな。で、どんな知恵が欲しいの? 未だ、奈未とかいう女を追っかけているのか? 未練がましいな」


「そう言わないで。俺が女性に縁が薄いのはとっくに知ってるだろ。僅かなチャンスを利用しないと、お静の所為で一生独身でいなければ成らないかも知れないのだぞ」
「ほらまた、人の所為にして逃げる。例え、ある程度運命とか宿命が決まっていたとしても、変えようと思えばその人の努力で変えられるの。時間は掛かるかも知れないけど」


「前に聞いたから分かっているよ。所で、俺の悩み、良い解決方法ある?」
「抑も、奈未の事をどれくらい知っているのよ。姓は? 住まいは? 仕事は?何処のホストクラブに通い詰め、相手のホストは誰?」


「全然、知らない」
「話にならないじゃ無い。それで、どんな作戦が立てられるのよ」


「どうすれば良い?」
「探偵にでも頼んで調べて貰ったら?」


「探偵なんか知らない。あっ、ホラ探偵とか、素っとぼけたネーミング付けて売り出している奴なら知ってる」
「頼りになるの?」


「それは分からないが、高そう」
「だったら、その探偵から調べて見なくちゃ」
「止めとくよ。ぼったくられたら詰まんないから」
「そうね、それが利口よ。じゃあね」
 またまた静子は消えた。


 静子に言われ、奈未の事は忘れようとする駿人。そんな時、成美の兄、和雅が紀田家に遣って来た。
 駿人は珍しく閃いた。

過去から今日は 21

「お静、居るか?」
 駿人は自分一人の部屋で静子を呼ぶ。
「だから、気安く呼び出すなって言ったでしょ」


「いいじゃん。どうせ暇して退屈なんだろ?」
「まあね」


「あのさ、俺、メイド喫茶行ってきたぞ」
「ウチの言葉を実行したのね」


「おう。それで、大変なことになったんだ」
「あのね、いちいち説明しなくてもウチには大体見えているから」


「なら、話は早い。俺さ、奈未を助けてやりたいんだ」
「人の恋路を邪魔すること無いじゃ無い。皇族長女の恋路を、理不尽な因縁付けてマスコミや民衆が邪魔したのと同じじゃない」


「あれか? 俺はメディアなんかの報道に煽られなかったぞ。マスコミは時々正義も見せるが人を貶めるのも上手だからな」
「正義なんかより、結局お金でしょ。それはどうでも良いけど、どうしたいの?」


「そこなんだよな。奈未に、夢中になってるホストに愛情なんて原子核ほどもないって教えて上げたい」
「幻覚?」


「わりいわりい。お静には化学的なことは分からないよな。とにかく、あの男に、愛情なんて爪の先も無い、全てはお金だと分からせたい。売春の男版じゃん」
「そこまで言って良いの? 人影が無いところで、怖い人が現れるかもよ」


「その気配したら、事前にお静が教えて欲しい。俺、一目散に逃げるから」
 駿人の言葉を聞き、静子は笑う。
「だらしが無いな。それで正義の味方、ホワイトナイトになる積もりなの?」


「それそれ。俺、弱いから今回はお静の力を借りたい」
「駿はウチの事、実態が無いのだから役に立たないって言ってたじゃ無い」


「いや、弁慶のように守ってくれとは言わない」
「古い! 駿の頭の中は新旧ごちゃごちゃ。せめて美人SPって言いなさいよ」


「とにかくだ、奈未ちゃんにそのホストは恋する相手では無いと教えたい」
「どうやって?」


「他の女といちゃついている所を写真に撮るとか、札束数えてニヤけている写真を見せるとか」
「それって、探偵の仕事じゃない」


「そうそう。お静にその場面を撮って来て欲しい」
「駿、大丈夫? ウチがカメラを持てる筈ないし、写真なんか撮れるわけ無いでしょ」


「やっぱりそうか。念写っていうのが出来るかと思って」
「ムリムリ」


 静子にあっさり否定されて、駿人は難しい表情を浮かべ考える。


「じゃあさー、幽霊になって脅すって言うのはどう? 抑もお静は幽霊と同じなんだから」
「どうやって? ウチは駿だけに見えるし、声が聞こえるのよ」


「そうか。奈未と会う度に、お静が幽霊として出れば、ホストは逃げ出すだろうし、奈未は恐怖で恋の熱も冷めるとんじゃないかと思ったんだけどな。あー、やだやだ。全くもう、お静は糞の役にも立たないんだから」


「何よ、その言い方。駿、言っちゃ悪いけど、イケメンホストに恋した女なんか、駿がどんなにヒーローぶったって、駿なんかに振り向いてはくれないよ。鏡を覗きなさいよ」
 怒ったのか、静子は辛辣な言葉を言い放つ。


「分かったよ。作戦を練り直す。あのさ、お願いだから、せめて薄らでも良いから、お静の姿が他の人にも見えるように修行して欲しい。幽霊として役立つから」
「無理!!!」
 腹が立ったのか、静子はパッと消えた。





【Music】許してあげる

過去から今日は 20

 駿人は、暇を見ては秋葉原のメイドカフェを回る。静子の言葉に含みを感じたからだった。
 成美という姉が居る。そして、多分可愛いだろう妹。何ともあやふやな情報を頼りに頑張る。


 最も、駿人には別の思惑もあった。女性というか、女子に慣れて置きたい気持ちだ。
 駿人は元来、メイドカフェなどの場所は好みでは無い。白々しい演技の中に溶け込めない性格だからだ。
 だが、人捜しをしていると言えば、一応名分が立つので羞恥心を取っ払える。


 数軒回ると、慣れた所為か、見栄や羞恥心が薄くなる。そして、その様な物を全て忘れると、こんな世界も悪くないと思い始めた。
 粘りの甲斐があって、遂に駿人が欲しがった反応が返って来た。


「旦那様なんですね。エミーを探しているって人は?」
「エミーちゃん、知ってるの? 会って話したいな」
 奈未の妹の名前など、駿人は知らない。でも、可愛いメイド服の女の子に話を合わせる。


「何を話すんですか?」
「エミーちゃんのお姉さんが心配しててさ。お姉さんはなかなかこういう店には来られないので、僕が代わりに見に来たんだよ」


「えー? エミーはそんなこと言ってないですよ。むしろ、エミーがお姉さんのことを心配してるんですよ」
「どういう事?」
 駿人は問い詰めるように聞く。


「よく知らないけど・・・」
「君にボーナスが付くサービスってあるの?」


「沢山お金使ってくれると・・・」
「よし、そのサービスとやらして欲しい。所で、エミーのお姉さんに関して、もう少しだけ教えて?」
 すると、メイド服の女の子が顔を寄せて小声でぼそぼそと話す。
「分かった。ありがとう」


 駿人は、そのメイドの言うがままのこそばゆいサービスを受ける。少々高く付いたが、駿人にとっては価値のある情報に思えた。


 駿人は三度、八王子の叔父の家に出向いた。そして、いとこの成美の帰宅を待った。


「あのさ、この前秋葉原であった成美ちゃんの友達。奈未って言ったっけ。今、結構ヤバいんだって?」
「突然何よ。駿君、奈未のストーカー遣ってたの?」


「何だよ、女って。ちょっと女性の話をしただけで、直ぐにストーカーとか言うんだから。これじゃあ男は、女に声も掛けられないだろう。女から男を誘う形に変われば別に文句は言わないが」
「だって、駿君、ストーカーになりそうな顔をしてるんだもん」


「ちょっと。幾らいとこだって、それは言い過ぎだろ。親しき仲にも礼儀ありだろ」
「分かったよ。そんな向きになって起こらないでよ」
 成美はにやけながら言う。それがまた、駿人を苛立たせる


「それで、駿君は奈未のどんなことを知っているの?」
「ホストに入れ込んでいるとか」
「よく知っているね。やっぱりストーカーだわ」


「それはもうよしなって。俺は純粋に奈未君を心配しているんだ。成美ちゃんが言ってた、イケメンで格好いい彼氏がいるって、それってホストだろ」
「そう。奈未、そのホストに嵌まっちゃったみたい。もう、夢中なんだよな」


「それでいいのか? 成美ちゃんは?」
「良いとは思ってないけど、恋って何も見えなくなるのよね。私のアドバイスなんて聞かないわよ」


「ホストは商売。女に金を使わすのが仕事。そんなのに惚れるなんて」
「私も一応注意してみたのよ。そしたら、人生に一度の恋。ボロボロになっても良いって言うから。そこまで言われたら、私はもう何も言えないわ」


 確かに、恋という物は理性を狂わす。相手も同じであれば、それはそれで幸せになれるかも知れない。
 しかし、今の奈未の相手は、明らかに金儲け。そこに愛情があるとは思えない。


 帰路に着きながら、駿人は奈未を何とか救いたいと真剣に考える。

過去から今日は 19

 新たな展開


 駿人は自分の部屋で、怒るやら安堵するやら、気分が落ち着かない。
「おーい、お静! 居るのか?」


 暫くして、
「うるさいな。もうウチの事は消えて欲しいんでしょ? 呼び出さないでよ。アラジンに出てくるランプの精の魔人じゃないんだから」


「あれ? 俺の召使いじゃ無かったっけ」
「冗談は止してよ。ウチを気軽に使おうなんて考えないで! そんな事したら、ウチ滅茶苦茶に生きて、駿の将来を悲惨にさせちゃうよ」


「分かった、わかったよ。悪かった。所でさ、茉莉はおっさんと旅行に行ったって、お静は言ったよな」
「そうよ。チラッとその幻影が見えたのよ」


「その、おっさんというのは茉莉のお父さんだったんだぜ」
「あら、そうなの?」


「あら、そうなの、じゃないよ。俺、危うく余計な行動をする所だったんだぜ」
「余計な行動って? ハハーン。茉莉を追っかけて、『殺してやる』とかいって、出刃包丁振り舞わすんだ」


「俺は間違ってもそんな事しない。ただ、話を聞きたかっただけだよ」
「男は皆、そうやって冷静さを装うが、その実、頭の中はカッカカッカ来てるんだよな」


「違うったら。茉莉はな、父親を温泉旅行に連れて行って遣ったんだよ」
「へー、いい話じゃん。しかし、父親と一緒じゃ、嘸(さぞ)かし面白くなかったろうな」


「面白いとか面白くないとかじゃないんだ。親孝行だったんだよ。母親は親孝行もして上げられないうちに死んじゃったからだってさ」
「益々いい話じゃん。で、その資金をパパ活で稼いでいたと言うことか」


「違うぞ! バイトしてたんだよ。茉莉の他に3人の兄や姉がいて、父親の分はその3人が出してくれた。茉莉は自分の使う分をバイトして稼いでいたんだ。彼女はお静が言うような女じゃ無い。偉いんだよ」
「へー、それはそれは。でもさ、駿は結局振られたんだろ?」


「何故そうなるんだ?」
「だって、LINEとか言う奴を送っても返事が来ないんだろ。幾らバイトが忙しいからって、ズーッと返事をよこさないのは、駿に飽きたんだよ」


 静子に痛いところを突かれた駿人。言われてみれば正にその通り。返事を返すぐらいの時間はタップリある筈。
 駿人の気持ちは一気に下がった。


「なあ駿。何度も言うけど、女ひとりに一喜一憂し過ぎるんじゃ無い? 男には男の成すべき物があるんじゃ無い? そちらに注力しなよ」


「うるさいな、出戻りが」
「失礼ね。ウチは出戻っていないわよ。未だ無くなった夫の両親と暮らしていたのよ」


「あのね、男ならとか男らしくとか、女は女らしくって。そう言うのって今は性差別に当たるんだぜ。男女平等の世界。昔と違うんだ」
「何言ってんのよ。世の中差別だらけじゃ無い。男女関係なく貧富の差はあるし、病気の有無も。見掛けの差もものすごいじゃ無い。差別だらけよ。ウチみたいに美人に生まれれば、それなりに良い思いが出来るけど」


「だから、そういう差別を無くして、みんなで平等な社会にって、頑張ってるんじゃないか」
「無理無理。生まれた時点で親や家庭が違うんだから、その時点で既に差別でしょ。100万年掛かったって平等になんか出来っこないよ。それより、お互いが理解し合い、協力し合える様にした方が余程早い」


 静子の言い分も最もだと思うようになる駿人。と、同時に、何故こんな展開の話になったかと、慌てて話を元に戻す駿人。


「違うんだよ、俺が言いたいのは。お静はあやふやなことを俺に吹き込むなと言いたいの」
「そうね、分かったわ。折角知ったことを事前に教えてあげたのに、そんなこと言われたんじゃウチも馬鹿らしいだけ。じゃーね」


「おいおい、消えろとは言ってないだろ」
「ウチの話を聞きたくないんでしょ。もう用が無いでしょうが」


「まあそう言わずに。一つだけ聞きたい。お静は茉莉の様子を見られるのか?」
「さあ。どうでしょうね?」


「拗(す)ねるなよ。今、茉莉に男が居るのか知りたいんだ」
「自分で調べたら。包丁持って」


「止めてくれ。俺が悪かった。で、どうなの?」
「全くもう。ウチがこんなに美人で性格良いのに、私の未来身である駿はなんて情けないんだろう」


「全てはお静の責任。責任を取りなさい」
「ハイハイ。・・・茉莉の周りには現在彼氏のような男は居ないみたいよ。でも、さっきも言ったけど、駿にはもう関心が無いと諦めるべきね」


「分かった。ありがとう・・・」
 静子の姿は消えた。が、遠くから彼女の声が聞こえた。
「秋葉原のメイド喫茶へ行けば」


 
【Music】パパパパパウ
【くだらない曲だけど、出来ちゃったので。お時間がある人は退屈しのぎに聴いて下さい。】

過去から今日は 18

 違った真実


 母親には豪放磊落という表現が相応しい。しかも、遠慮無くドシドシ駿人の心の中に入って来る。
 駿人はどちらかというと父親似。大人しく、見た目より神経は繊細だ。


 そんな息子の性格を知ってか知らぬのか。母親は言い難(にく)いことでもズバズバ話してくる。
 当然、青少年時代の駿人としては心が傷つき母親を憎むことがあった。しかし、大人になり振り返れば、そのことが返って駿人を救ってくれたと思う所も数多い。


 父は、そんな母が好きになったのか、それとも押し切られたのか? 何れにしても、今は問題なく夫婦で居るので、これはこれで良かったのだろう。
 そんな母親の性格を少し貰えば良かったのだろうが、駿人は結構こだわる性格だった。


 最近駿人は、土日休みのどちらかの日には、手賀沼のサイクルロードを走る。身体を鍛えるためでは無い。茉莉の姿を求めているのだ。
 本当は、ストーカーまがいな事をしたくない。会って嫌みの一言でも言いたいのだ。とはいえ、その行為自体がストーカーみたいな物だが。


 1ヶ月ぐらい過ぎたある日。この日は冬の季節の割には比較的暖かかった。それもあってか、ロードバイク乗りが多かった。
 駿人は、走りながらもバイク乗りの女性に視線を向ける。というより、茉莉が愛用しているヘルメットを探しているのだ。


 そんな時、やっと茉莉と同じヘルメットを被った女性を見つけた。声を掛けると、最初に茉莉から走り方を学んだ時、一緒に居た女性だった。
 駿人は彼女を呼び止める。
 彼女も駿人を覚えていたのか、気軽に応じてくれた。
  
「今日は茉莉ちゃんと一緒じゃ無いんだね」
「先輩ですか? 先輩は今バイトで忙しいんですって」
 彼女は茉莉の後輩のようだ。


「バイトかー。どんなバイトしてるの?」
 それとなく聞く。
「詳しくは知らないんですが、食べ物関係の店みたいですよ」


「卒業旅行って結構みんなするよね。その資金を稼いでいるのかな?」
「先輩は卒業旅行には行かないと思います」


「どうして?」
「だって、もう行って来たと言ってましたから」


「何処に? 海外かな?」
「温泉旅行。でも、あれって卒業旅行って言えるのかな?」


「誰と?」
「先輩のお父さんと」
 駿人にとっては予想外な言葉だった。


 駿人は、静子の言葉をストレートに受け止め、茉莉はてっきりパパ活で金持ちおやじと旅行に行ったと信じ切っていたのだ。


「お父さんと? 卒業旅行としては随分と面白い組み合わせだな?」
 駿人は完全に信じ切れず、呟く。


 すると、後輩に当たる女性は旅行に行った事情を駿人に話す。


 茉莉の母親は数年前に亡くなった。茉莉は父親と2人で暮らしている。茉莉は4人兄弟姉妹の末っ子。
 上の2人は既に結婚している。茉莉の直ぐ年上の兄は一人暮らし。


 兄弟姉妹は、母親の三回忌が済んだところで、父親を労う積もりで父の温泉旅行招待を考えた。
 上の3人は働いているので、お金を出し合い、末っ子の茉莉はお金を出さない代わりに、父親の付き添いをすると決まった。


 さすがに若い茉莉は、父親との旅行を渋ったが、生きている内に親孝行をしたいという兄や姉たちの言い分に負けた。
 母親には、親孝行も出来なかったという残念な気持ちからだった。


「そうだったんだ」
 パパ活旅行と疑った自分を情けなく思う駿人。
「でも、先輩もそれなりに楽しんだみたいですよ。温泉は定番として、そのほかは自分の行きたい所に行ったみたいですよ」


「どんな所に?」
「スキー場だとか言ってました。先輩は、温泉地をスキー場近くにしたそうです」


「ほんとに? お父さん、旅行楽しめたのかな?」
「どうでしょうね。でも、子供達に旅行プレゼントして貰っただけでも嬉しかったのではないでしょうか」


「そうかも知れないね。何となく分かる」
「先輩が偉いなと思うのは、自分の遊び分は自分で稼いだと言う事」


「成る程。自分の分ぐらいは自分でお金を出そうとした訳か。それでバイトなんだ。今も続けているところを見ると、かなり予算オーバーしたのかな?」
「それもあるかも知れないけど、何か、お金を稼ぐことに目覚めちゃったみたい」


「ハッハッハッハ。自分の自由になるお金が増えるのは、凄い魅力だもんな」
駿人は何故か異様に明るくなり、笑う。